(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 毛利蘭 毛利小五郎 妃英理 栗山緑 九条玲子 大津敏之 井上隆志(55) 遠藤紀子(28) 有馬雅彦(35) 秋山拓也(56) 裁判長 号令係 |
本編の主人公、正体は工藤新一 本編のヒロイン、新一の幼なじみ 蘭の父親で私立探偵 蘭の母親、腕利きの弁護士 妃弁護士の秘書 検察庁のエリート検事 大津不動産社長、被害者 ビル荒らしの常習犯、被疑者 スナック経営、井上隆志の一人娘 イタリアンレストラン経営、大津の娘婿 野本ビル管理人、遺体の第一発見者 東京地方裁判所 裁判長 東京地方裁判所 係員 |
高山みなみ 山崎和佳奈 神谷明 高島雅羅 百々麻子 松本梨香 辻親八 飯塚昭三 豊嶋真千子 竹村拓 田口昴 村松康雄 千葉一伸 |
もう温泉にも随分行っていないし、今の自分は紅葉もとてもきれいに違いない…そしてたまには仕事を休んでのんびり骨休めした方がいいという蘭の言葉…秋の行楽シーズンの旅行パンフレットを見た妃英理は心を大きく動かされますが…結局当番に指定されていた事件の資料を見て、その弁護をを引き受けることになり、蘭たちとの楽しい旅行はお預けとなってしまったのでした。
被告人が経済的な理由などで弁護士が雇えない場合、国が国選弁護人を雇って被告人の弁護をさせて裁判を進めていくのが国選弁護人の制度ですが、その際誰も引き受け手がない場合のために弁護士会が決めておくのが当番というシステムでした。
そして今回当番に指定されていた不動産会社社長の強盗殺人事件というのは、ざっと見ただけでも充分弁護の余地があるにもかかわらず、誰も引き受ける弁護士がいないというのです。その理由というのが実は…
九条玲子─検察のマドンナと呼ばれるあの女性検事がその事件を担当するため、皆恐れをなして引き受けるのを躊躇している…というのが本当の所だったのです。
妃も前回彼女と法廷で初対決し見事に勝利を収めたものの、彼女の優れた法廷戦術で一時は苦戦を強いられたことは、まだ記憶に新しい所。そして今二度目の対戦の火ぶたが切って落とされようとしていたのです…!
一ヵ月ほど前、杯戸町の野本ビルというビルの2階にある大津不動産の事務所で、大津不動産社長大津敏之氏の遺体が発見されたのですが、室内に残されていた指紋や遺留品からビル荒らしの常習犯で前科のある井上隆志という男が逮捕されました。
被告の井上も空き巣に入った所を被害者に見つかり、揉み合ううちに室内にあったガラス製の灰皿でつい殴ってしまったことは認めているらしいのですが…実際起訴されてみると、何と起訴状の罪名は強盗殺人罪だったのです…。
傷害致死なら2年以上の有期懲役ですが、強盗殺人となれば死刑か無期懲役のどちらか…普通このような場合傷害致死罪になるはずが、なぜこれほどまでに重い刑なのか? 妃にもコナンにも九条検事の真意が図りかねるのでしたが…
問題になったのは、大津不動産の金庫に保管されていたという1200万円もの現金だったのです。検察側は井上が大津社長を殺害後金庫を開けて現金を盗み出し、どこかに隠したのだと疑っているらしいのです。しかも金庫のダイヤルには井上の指紋が残っていたらしく…
その一方で被害者の頭部には3度殴られた痕跡が残っていたらしく、執拗に殴打を繰り返したことから殺意も認定。そこで殺意の否定される傷害致死罪ではなく、強盗殺人罪を求刑しようとしていると妃は考えたのです。
しかし井上は金庫から金を盗み出したことについては頑なに否定し、まったく身に覚えがないと繰り返すばかり。他方殴った回数については気が動転していたため覚えていないと答えますが、殺意に関しては否定。
そこで妃は被告に殺意がなかったという一点に絞って裁判を戦っていく方針を固めたのでした。
第一回の公判が始まると、九条検事による起訴状朗読が始まり、予想どおり強盗殺人罪を求刑してきます。
これに対し妃は被告の井上には殺意がなかったと主張して応戦しますが、そこで九条検事はとんでもない切り札を持ち出してきたのでした…!
井上の「たまたま盗みに入るビルを物色しているうちに野本ビルが目に入っただけで、大津社長には何の恨みもない」という答えに対し、九条検事は井上の娘の遠藤紀子が大津不動産の管理する別のビルでスナックを経営し、大津社長とも関わりがあったことを示してみせたのでした。
つまり被告の井上にそのことで被害者の大津社長を恨む立派な動機があることを証明してみせたという訳で…第一回の公判は、完全に検察側優勢の状態で幕を閉じたのです…。
小五郎もコナンも何とか弁護側の妃の不利な情勢を打開しようという気持ちはあるものの、被告人に殺害の動機があり、金庫のダイヤルにきれいに指紋が残された状態では手の打ちようがありませんでした。
しかし妃は、井上の娘紀子の「自分の父親は盗人のろくでなしではあるものの人、を殺せるような人間ではない」という言葉に大いに心を動かされたらしく…
強盗殺人罪(刑法240条後段)においては、殺人に関しては殺す意図(故意)がない場合はその成立が否定されるというのが判例や学説上の通説になっています。
これは強盗殺人罪があまりに重い量刑(死刑か無期懲役)のためというのがその理由の一つとされています。
従って強盗罪の他に傷害致死罪(刑法205条)が成立することになります。
一方強盗傷害罪(刑法240条前段)の場合は、傷害の故意に関しては傷害罪(刑法204条)と同じで、傷害の故意がある場合と暴行の故意しかない(相手を傷つける意思がない)場合の両方が含まれます。
つまり相手を傷つける意図がなくても傷つければ強盗罪と傷害罪なのではなくて強盗致傷罪になります(もっとも傷害の程度という別の問題はありますが)
参考までに、これらの罪に関する法定刑を比較してみると…
▼強盗殺人罪(240後段)→死刑または無期懲役
▼強盗致傷罪(240前段)→無期懲役または7年以上の懲役
▼強盗罪(236)→5年以上の有期懲役
▼窃盗罪(235)→10年以下の懲役
▼傷害罪(204)→10年以下の懲役または30円以下の罰金若しくは科料
▼傷害致死罪(205)→2年以上の有期懲役
▼殺人罪(199)→死刑、無期懲役または3年以上の懲役