(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 毛利蘭 毛利小五郎 町田修造 町田保(53) 町田則子(29) 町田浩(27) 山上竜夫(58) 修造の妻 蝦夷松刑事 |
本編の主人公、正体は工藤新一 本編のヒロイン、新一の幼なじみ 蘭の父親で私立探偵 屋敷の主、元自動車販売会社社長 東京に住む画家、町田修造の弟 ブティック経営、町田修造の長女 会社員、町田修造の長男 弁護士 町田修造の妻、5年前に他界 北海道警北海署刑事 |
高山みなみ 山崎和佳奈 神谷明 岡部正明 池水通洋 速見圭 高橋広司 中博史 声の出演なし 中木隆司 |
「せっかく北海道に来たのに、カニも食わず温泉にも行かないなんて…」と、不満そうに愚痴をこぼしながら小五郎がレンタカーを走らせる行き先は、北海道でしか見られないという特別天然記念物のタンチョウヅルの生息するとある湿原でした。
間もなく湿原に到着した小五郎、蘭、そしてコナンの三人は、湿原の真ん中に建てられた給餌場で楽しそうにタンチョウ見物をしていました。ところがそんな三人のもとに突然ボーガンを構えた強面の老人が現れ、小五郎たちに何をしているのかと問い質してきたのです…!
その給餌場が個人の所有物であることを知らなかった小五郎たちは、無断で立ち入ったことを平謝りしますが、その後は老人ともすっかり打ち解け、鶴の世話をしたお礼にと、三人は近くに露天風呂まであるというその老人の屋敷に招待されることになったのです。まさに鶴の恩返しとはこのこと、三人は喜び勇んで老人の家へと向かったのですが…
その老人の名は町田修造といい、元々は東京で自動車販売会社の社長をしていましたが、5年前に妻の病気療養のため東京から北海道に移り住み、その妻が他界した後はタンチョウやその他の野鳥たちの世話をしながら一人暮らしを続けているということでした。
ところがその日に限って町田修造の家には、たくさんの人間が彼を訪問することになったのです。
まず最初は町田修造の弟・町田保。彼は東京に住む売れない画家らしく、10日前から居候をしているという話でした。
それからしばらくすると、今度はブティックを経営しているという町田老人の娘・則子と会社員の息子・浩の二人が老人を訪ねてきます。
ところが二人は揃いも揃って金に困っている様子で、部屋に入ってくるなり町田老人に金銭援助を頼み込んできたのです。しかし老人は「法定相続分はすでに生前分与してある。自分の全財産3億円は今日の5時、弁護士が持参する書類に印をついた時点で、タンチョウを世話するため全て村に寄付される」と、頑強に二人の頼みを跳ねつけてしまったのです。
そして藁にもすがるような自分たちの願いがあっさりと断られてしまったた町田保は、自分の子供のことよりも鳥の方が可愛いのかと、捨て台詞を残して部屋を後にしていったのでした。更に給餌場でタンチョウの世話をしていた町田老人を、そばに置いてあったボーガンで狙うそぶりまで見せたのです。その時はもちろん矢もついておらず、ほんの冗談のつもりだったのですが……
そんな町田一族の呆れるような場面に遭遇した小五郎たち三人でしたが、気を取り直して屋敷の近くにあるという露天風呂でのんびりと湯に浸かります。しかも小五郎は持参していたワンカップをコナンに持って来させて…
それからしばらくして、三人は町田老人が弁護士に会うという5時を前に温泉から上がり、邸に戻る準備を始めました。ところがその時でした、コナンたちは町田老人の息子の浩が、青ざめた表情をしながら車を猛スピードで飛ばして屋敷から走り去って行く姿を目撃したのです…。
同じ頃、今度はタンチョウをスケッチしに行っていたという弟の保が戻ってきて小五郎たちに話しかけてきます。ところが酒を飲んで2時間湯に浸かり、なおかつ温泉の中を泳いでいた小五郎はすっかりのぼせてしまい…小五郎を介抱している蘭とコナンの二人とともに、しばらくその場から動けそうになかったのです…。
そこで仕方なく保は一人で邸に向かいますが、その途中で弁護士の山上と出会い、一緒に邸の前までやって来ます。
ところが玄関へ回ろうとしていた二人は、ふと修造がつがくつろいでいるはずのリビングの窓ガラスが割れていることに気がつき、何となく気になってその窓からリビングの中を覗いてみたのですが…
すると窓越しに見えたのは、何とソファーに座ったままボーガンの矢を胸に突き立てられて息絶えた、町田老人の変わり果てた姿だったのです…!!!
驚いた保と山上の二人は、二人の声を聞きつけて向かいの部屋から出て来た娘の則子と三人で老人のいる部屋に入ろうとしたのですが…
しばらくすると北海道警察北海署の蝦夷松刑事が釧路市消防局の救急車を伴って屋敷に到着します。ところがパトカーの中から警察官に伴われて現われたのは何と…
小五郎の名声が北海道には轟いていないということが判明した事件です(笑)。30分ものとしてはまずまずの出来でした。相変わらずの酔っ払い小五郎が見れただけでもこの話は充分合格点ですが、ミステリーとしての出来ということを考えるとすれば、ちょっと評価は辛めになるかもしれません。
まずとにかく気になったのは犯人のアリバイ工作というのが非常に杜撰(ずさん)だということです。犯人はスケッチをしていたことをアリバイにしようとしていますが、これはあってないようなアリバイだと思います。何しろ描いてきた絵というのが、その時間に描かれていたものだと証明するようなものが何もないからです。
その時にしか見られないものが描かれていたとかそういう特殊な事情がない限り、スケッチをしていてもアリバイ成立とは言い切れません。これを殺人事件のアリバイにするというのは私が犯人だったら怖くてできません(苦笑)
下手なアリバイ工作をするくらいならまだ何もしない方がいいと思えますが…。偽のアリバイを作っていたということが判明すれば容疑は当然自分にかかりますから、かえって墓穴を掘るだけだと思います。
またスケッチについてトリックだと気付いたコナンの推理ですが、眠る時に向いている方向など、タンチョウについて何であんなに知っているのか(笑)、少し詳しすぎます。それはいいとしても視聴者はあのようなことは知っているはずはないですから、当てるのはほぼ不可能でしょう(苦笑)。確かに冒頭でタンチョウが出てきていますから、それとスケッチの絵を見比べることは出来ますが、それでも不十分だと思います。
更に言うと犯人は強化ガラスを移動して床に刺さった矢まで抜いているのに、なぜ抜いた時矢のすぐ近くのガラスについて気付かなかったのでしょうか?これは被害者と犯人自らが言っていたように「観察眼が欠如している」としか言いようがありません(笑)
とこれだけ不満足な点はあるのですが、容疑者が容疑を認めているにもかかわらず犯人ではないという面白い事件ではありました。これとよく似たもので同じ30分ものの「四回殺された男」という話がありますが、そちらの方が出来はいいかもしれません。
30分の割にはきちんと伏線もいろいろ張られていますし、小五郎が笑わせてくれるなど充分楽しめる作品なのではないかと思います。ラストも気持ちのいい終わり方でした。小五郎の「俺もタンチョウになって世話されたい」という一言は余計ですが(苦笑)