(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 工藤新一 毛利蘭 毛利小五郎 目暮警部 高木刑事 佐藤刑事 中谷頼子(41) 中谷春彦 中谷絹江 堤英輔(35) 堤美里(33) 八木沢浩(34) 八木沢まなみ(30) ムサシ(2) クール(2) 前原剛(20) 救急隊員 |
本編の主人公、正体は工藤新一 本編の主人公、高校生探偵 本編のヒロイン、新一の幼なじみ 蘭の父親で私立探偵 警視庁捜査一課警部 巡査部長、目暮の部下 警部補、目暮の部下 依頼人、堤の隣人 頼子の夫 頼子の義母、春彦の母親 ムサシの飼い主、会社社長 英輔の妻 クールの飼い主 浩の妻 アイリッシュ・セター(オス) ゴールデン・レトリーバー(メス) 「愛犬ジョン殺人事件」の被害者の大学生 救急隊員 |
高山みなみ 声の出演なし 山崎和佳奈 神谷明 茶風林 高木渉 湯屋敦子 篠原恵美 仲野裕 ??? 磯部弘 久川綾 坪井智浩 半場友恵 ??? ??? 佐藤政道 大西健晴 |
ある晴れた日のこと、お馴染みの米花公園に散歩にやって来た蘭とコナンは、広々として気持ちの良い公園の土の上を元気に走りまわるたくさんの犬たちの姿に心を奪われます。
米花公園内にはつい最近ドッグランもできたらしく、そのため大勢の犬と飼い主たちが集まり楽しい一時を過ごしていたのですが、その中でもとりわけ二人の注意を引いたのが飼い主の投げたボールを元気よく追いかける二匹の犬たちでした。
その二匹の犬というのはアイリッシュ・セターのオスとゴールデン・レトリーバーのメスという組合せで、名前をムサシとクールといい、ムサシの方は米花町4丁目の大きな屋敷に住む会社社長の堤英輔とその妻美里の、一方クールの方は八木沢浩とその妻まなみの飼っている犬でした。
堤夫妻と八木沢夫妻は元々は知り合いでも何でもなかったのですが、たまたま犬を連れて散歩をしている時に偶然に知り合い、ムサシとクールがともにその当時生まれて5か月だったこともあって意気投合し、それからはちょくちょく一緒に犬を連れて散歩をしたり遊んだりするようになったというのです。
そして犬たちにとっても、一緒に散歩したり遊んだりしていくうちに今ではお互いかけがえのない存在になっており…ムサシとクールはいわば仲の良い幼馴染みのようなものなのでした。
その後元気よく走り回る犬たちにすっかり元気づけられた蘭とコナンが毛利探偵事務所へと戻ってみると、事務所の中では小五郎が依頼人の女性と何やら真剣な面持ちで話し合っている真っ最中でした。
ところがその女性の依頼内容というのが、先ほどまで米花公園で犬たちと楽しい時間を過ごしていた蘭とコナンの二人にとっては、とても信じ難い内容のものだったのです…。
「アイリッシュ・セターのムサシです…」─その依頼人の名前は中谷頼子といって、3年ほど前から米花町4丁目に家を構えて会社員の夫と二人で暮らしているという40代の主婦でした。
その頼子が言うには、隣りの家で飼われている大きな犬が自分を見るとやたらと大声で吠えたり唸ったりするらしく、いつか襲われるのではないかと怖くて仕方がない…そこで小五郎にその犬を何とかして欲しいというのです。
そしてその問題の犬というのが…先ほどコナンと蘭が会ってきたばかりのあの堤夫妻の飼い犬ムサシだというのでした…。
確かに体は大きいものの、ムサシは人懐っこくて訳もなく人に吠えたり唸ったりするとはとても思えない、まして襲ったりなどとは…そう思い納得がいかない蘭とコナンはムサシをかばおうとしますが、それがかえって頼子の気に障ったらしく、腹を立てた頼子は、結局自分の方から依頼を断り事務所を後にしてしまったのです。
ところが…頼子の心配は最悪の形で現実のものとなってしまったのです。それから数日経ったある日の夜のこと、ムサシの飼い主の堤夫妻が出席したパーティーを早めに切り上げて家に戻ってくると、庭の方から爆竹が破裂するようなバチバチという音がして、それに続けてムサシが大きな声で何度も吠えているのが聞こえてきたのです。
何事が起きたのかと、堤英輔が急いで車から降り車内にあった懐中電灯を手に声のした庭の方へ向かってみると、庭の中では堤の隣りに住む中谷頼子が地面に尻餅をついた状態で身動きできずにいて、その頼子に向かってムサシが興奮した様子で何度も吠えかかっていたのです。そして頼子は何とかしてムサシを追い払おうと、手にしていた杖を必死に振り回して抵抗していたのですが…
しかしその数メートル先では…何と頼子の夫の母親である中谷絹江が、首筋から大量の血を流し、あお向けに倒れて帰らぬ人となっていたのです…!
ムサシが人を襲い死なせてしまった…すぐに警察が駆けつけて捜査が開始されますが、事情聴取を受けた頼子の話によると、その日の夕方、夫の留守中に彼女の夫の母親の絹江が家に遊びに来たため頼子はコーヒーを出したのですが、誤ってそれを絹江の服の上にこぼしてしまい、頼子の赤いカーディガンを絹江に貸すことになったというのです。
そしてその後で頼子は洗濯物が外に出たままなのを思い出し2階のベランダまで取り込みに行ったらしいのですが、うっかりして彼女の夫のシャツを隣りの堤の家の庭に落としてしまったというのです。
しかしあいにく堤夫妻は不在で連絡がつかず、かといって頼子はムサシが怖くて仕方がなく自分で取りに行くことができない…そこでそれを知った絹江が自分が取ってくると言い出し、頼子の危険だからという静止を振り切って隣りの庭へと侵入、そこをムサシに襲われてしまったというのです…。
それから頼子は慌てて絹江を助けようと庭へ入ったのですが、結局ムサシの吠え声に圧倒されて自分の家に逃げ帰ろうとしますが、その途中で転倒。その時足を挫いてしまったため身動きができなくなり、杖を振り回して何とか抵抗している間に図らずも堤夫妻が戻ってきて助けてくれたというのです。
絹江は頼子のカーディガンを着ていたために頼子と間違われて襲われた…だからあの時何とかしてくれと頼んだのに…と依頼を引き受けてくれなかった小五郎を責める頼子…。
しかしムサシが訳もなく人を襲うような犬ではないと感じていたコナンは、何か訳があるに違いないと事件現場を詳しく調べてみたのです。すると……
この言葉を聞いてハッとされたは相当なコナン通でしょう。なぜなら今回の放送から遡ること10年も前の1996年に放映された 26「愛犬ジョン殺人事件」でもジョンという犬が人を襲ったという事件が発生しているからです。
そして今回のお話も脚本家は同じ古内一成氏。そのせいもあってか作中では愛犬ジョンの話にも言及がありました。かなり以前の作品ですが、DVDも発売になりましたし、こちらもチェックしつつ今回のお話を見ると更に楽しめるかと思います。
今回登場したムサシはアイリッシュ・セター、クールはゴールデン・レトリバーという種類の犬でした。
アイリッシュ・セターについては「ワールドドッグ図鑑」というサイトのこちらのページを、ゴールデンレトリバーについてはこちらのページを参照下さい。
今回の作品はオーソドックスな謎解きミステリとしてかなり楽しめる内容だったのではないでしょうか。
犯人に関しては倒叙ミステリではないものの、事件後すぐに中谷頼子に動機があったと警察の調べで分かりますから今回の主たる目的ではないのは明らかで、視聴者は結局どうやって頼子が義理の母親を殺害したかということだけを考えればよい訳です。
いわゆる”ハウダニット(どうやって殺したか?)”というものですが、この点が実によく計算されて伏線も張られていて、推理する方も充分楽しめるはずです。
ムサシが歯磨きをする際に粘土がついていたことがあったという堤夫妻の米花公園での話と、美術の先生をしていたという警察の話、この二つでどんな凶器が使われたかは充分に推理が可能ですし、その凶器の在り処も不自然に遠く離れた場所に残っていた被害者の血痕や足を挫いていたことで隠滅することができなかった点で実に見事に理由づけられています。
またきちんと唾液が検出された点も、傷口を舐めるという犬の動物としての習性を実に巧みに使っており、非常によく考えられていることがここからも窺えます。
確かにそこを捜査しない捜査陣にも問題はありますし、そこがリアリティーがないと言われる方もいるかもしれませんが、本格推理というのは得てしてそんなもので、何よりも与えられた手掛かりを元に推理をすることを楽しむものです。
そして今回は手掛かりもきちんと与えられている訳ですから、アンフェアではありませんし、それらの与えられたヒントを元に推理できなかった人間が、後からリアリティがないなどと難癖をつけるのは、ミステリの楽しみ方というものを知らない悲しい人間のすることだと私には思えてならないです。
今回の話は殺し方とその凶器の在り処だけに絞ったシンプルな構成でよく纏まっており、意外性もあって充分楽しめる内容だったと思います。
また犬が幼馴染みだという点を新一と蘭に関連づけて蘭に小言を言わせる点もキャラクターを上手く使った楽しいものでしたし、懐かしい愛犬ジョン殺人事件についても言及されているあたりはオールドファンにとってはたまらないです。
こうやって考えていくだけでも今回は文句のつけようのない素晴らしい出来栄えではなかったかと私には思えます。