(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 毛利小五郎 高木刑事 千葉刑事 笹本安太郎(32) 神尾俊之(32) 根津猛 日影呈一 編集員 店主 大家 運転手 |
本編の主人公、正体は工藤新一 蘭の父親で私立探偵 巡査部長、目暮の部下 捜査一課刑事、目暮の部下 会社員 ミステリー誌編集者、笹本の友人 笹本と神尾の大学時代のミス研の同僚 笹本と神尾の大学時代のミス研の同僚 神尾の勤めるミステリー誌の編集員 雀荘〈東風荘〉の主人 荒間荘の大家 TMタクシーの運転手 |
高山みなみ 神谷明 高木渉 千葉一伸 松野太紀 緑川光 西村朋紘 星野貴紀 中村千絵 岡和男 佐藤しのぶ 小伏伸之 |
自分たちを守って欲しい、犯人も分かっている…大学時代ミステリー研究会で仲間だった日影という男に間違いない、奴に殺される…
その日毛利探偵事務所を訪れ、必死の表情で小五郎にそう訴えかけてきたのは、笹尾安太郎という会社員の男とその友人でミステリー誌の編集者をしているという神尾俊之という男の二人でした。
二人の話をまとめると次のようなものでした。その日の朝、笹本安太郎が出勤のために米花駅を目指して歩いていると、彼の頭上目がけてビルの屋上からコンクリートのブロックが落下してきたというのです…。
間一髪の所で笹本は難を逃れましたが、上を見上げるとサングラスに長髪の男がいて間もなく姿を消し、一方落下の衝撃で真っ二つに割れたブロックのには血のような真っ赤な文字で”影”と書かれていたというのです。
突然の出来事にひどく狼狽した笹本は、大学時代からの友人である神尾俊之に相談。事情が複雑だけに信じてもらえるか分からなかったため、警察に連絡する前にとりあえず探偵に相談してみようと思い小五郎の下を訪れたという訳でした。
その事件の犯人として二人が疑っているのが日影呈一という男で、前述の通り笹本と神尾の大学時代のミステリー研究会の仲間の一人でした。そして二人が日影を疑っているのには、事件当時サングラスに長髪という大学時代と同じ姿で現われたこと以外に実はもっと大きな理由があったのです。
それはそもそも半月ほど前のこと、ミステリー雑誌の編集者をしている神尾の所に「そして誰もいなくなればいい」というタイトルの一編の小説の原稿が届けられたのが発端でした。
その小説は文章こそワープロで打たれていたものの、表紙のタイトルは笹本の事件で現場に残されたブロックの”影”という文字と全く同じように毒々しい赤い文字で書かれていたのですが、その赤い文字のタイトルというのは大学時代からの日影の小説の大きな特徴だったのです。
更に問題の「そして誰もいなくなればいい」というタイトルの小説、何とそれは昔の仲間を次々に殺害していくという殺人を予告する内容の小説だったのです…!
彼らが大学時代の頃、ミステリー研究会には十数名のメンバーがいたのですが、その中で熱心に活動をしていたのが今回事件を依頼してきた笹本安太郎と神尾俊之、それに根津猛という男と問題の日影呈一の4人でした。
そして「そして誰もいなくなればいい」で殺害される人物というのは、他でもない日影を除く根津猛と神尾俊之、そして笹本安太郎の三人だったのです!
しかも実際の所事件はもう既に発生していたのです。三人のうちの一人の根津猛が、一昨日の夜に小説に書かれた殺害方法どおりに米花公園で背中を刺されて殺されていたのでした…。
殺害の手口まで小説と同じとなるととても偶然とはいえない。となると神尾と笹本が守って欲しいと訴えるのも頷けたのですが、困ったことに残る二人については小説の中には、復讐の動機がかつて自分の書いた小説を神尾たちにひどく非難されたことへの恨みということ以外、場所や手口の具体的な記述がなく、いつどんな方法で襲ってくるか予想もつかないことでした。
突然突きつけられた殺人予告に怯えながらも、神尾の勤めるミステリー誌の編集部で「そして誰もいなくなればいい」を読みながら今後の対策を話し合う小五郎たち。ところがそんな小五郎たちを嘲笑うかのように、敵は意外な方法で神尾たちに襲いかかってきたのです…!
それは何と小包爆弾という何とも卑劣な方法でした。神尾が編集部に届けられた自分宛ての懸賞当選品の小包を開けてみると、いきなり箱が激しい音を立てて爆発したのです。
すぐに神尾は川崎総合病院に運ばれて手当てを受けますが、幸い火薬の量が少なかったために事なきを得ます。しかし爆発物の中には、またしても赤い文字で”影”と書かれた例の紙が入っていたらしく…
笹本と神尾の二人に迫る日影呈一の魔の手…もはや一刻の猶予も許されない事態となっているのは明白でした。
そこで病院の神尾俊之は千葉刑事が、笹本安太郎は小五郎と高木刑事がボディーガードをしながら、警察の組織を挙げて全力で日影呈一の所在を探ることになったのですが……
大学時代のミステリー研究会の仲間から突然送られて来た殺人を予告する「そして誰もいなくなればいい」という小説。
既に一昨日に仲間の一人が小説に書かれた通りの場所と方法で殺害され、残る二人にも殺害の魔の手が忍び寄っていたのです。
小五郎は殺害予告に怯える二人の依頼を受け、警察とともに彼らを守ろうとしますが、ところが肝心の犯人と目される日影呈一は、3年前に山に向かってきり失踪してしまっており…
日影呈一が大学時代に書いていた小説の名前。その後「XYZ」という作品も書きました。
コナンが毛利探偵事務所で読んでいた週刊少年サンデーのような漫画雑誌。
神尾俊之が大学のミステリー研究会時代に書いた推理小説。他に「十年目の殺意」という小説も書いています。
日影呈一が住んでいたアパートの名前。
ミステリー誌編集者の神尾俊之に送られてきた懸賞当選品はこの大黒ビールのものでした。
編集部で怪我をした神尾俊之が入院した病院。
営業マンの笹本安太郎の営業先の店。
笹本安太郎が住んでいるマンションの名前。
笹本、神尾、根津、日影たちが大学時代に参加していたミステリー研究会の同人誌の名前。
根津猛が常連客だった雀荘の名前。
米花駅でのブロック落下事件の際に神尾俊之が乗ってきたタクシー会社の名前。
今回の作品は小説の通りに事件が発生していくという、ミステリの世界ではありがちですが非常に魅力的な設定の一つでした。
ありがちな設定でも作り手の力によっては傑作にも駄作にもなるのは言うまでもないことで、ではこの作品はというと、残念ながら細かい点がもう少し丁寧に作られていればと思わざるを得ない残念な作品になってしまっています。
一番勿体無かったのは犯人だという決定的な証拠が赤いペンキだったこと。百歩譲ってペンキが決定的な証拠だというのはいいとしても、なぜ靴の裏についたペンキがタクシーの車内に付着するまで犯人がまったく気づかないのでしょうか?
タクシーに乗るまではビルの屋上から階段なりエレベーターを降りて路上に出る訳で何十メートル何百メートルと歩いている訳ですから、まったく気づかないというのはどう考えてもおかしいです。
まあ靴の底でないと犯人がとっくの昔に気がついて着替えるなりされてしまうからなのでしょうけれども、せっかく小説の文体が日影のものではないという状況証拠に加えて物的な決定的証拠を用意しているのですから、その物的な証拠がきちんと考えて作られていれば、もっと良い作品になったはずだけに勿体無いですね。
それからもう一点、犯人当てについては千葉刑事の目を盗んで病院から抜け出したのだろうと予想できた時点、つまり千葉刑事が病院でお婆さんが倒れかかったのに手を貸そうとした時点で容易に想像がついたのですが、あのシーンもお婆さんが倒れかかったのは偶然で、もし何も起きなかったらどうしていたのかなというのは気になる所です。
それにしてもああいう風に病室の扉の前を数秒でも空けてしまったら、普通千葉刑事は戻ってきてから何事もなかったかどうか中の様子を確認すると思いますし、抜け出す方としても千葉刑事が確認しに来ると思うでしょうから怖くて抜け出せないのではないでしょうか?
というよりもどうして中にいた神尾が千葉刑事が持ち場を離れたことが分かったのかが不思議ですが(苦笑) まあそんな中で堂々と病院を抜け出し変装して車で笹本を襲うというのは大胆といえば大胆ですし、無謀といえば無謀です(苦笑)
抜け出してから数秒で戻ってくることができるような行為を神尾がするのだったら上手い設定だとは思いましたが、どこにいるかも分からない笹本を探し出して車で襲うというのは時間がかかり過ぎですし少し無理がありましたね。
それに戻ってきてからまた病室に戻る時はどうしたのでしょうか。まさかそこまで千葉刑事が持ち場を離れていたとは考えにくいのですが、どうでしょう。