(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 毛利蘭 毛利小五郎 大和敢助 上原由衣 諸伏高明(35) 明石周作 翠川尚樹(38) 小橋葵 山吹紹二(39) 百瀬卓人(37) 直木司郎(36) 医者 患者の夫 警官 警官 阿笠博士 灰原哀 |
本編の主人公、正体は工藤新一 本編のヒロイン、新一の幼なじみ 蘭の父親で私立探偵 長野県警警部 長野県新野署警部 新野署刑事、大和警部のライヴァル 希望の館の元住人、イラストレーター、赤色 希望の館の元住人、俳優、緑色 希望の館の元住人、小説家で明石周作の妻、青色 希望の館の元住人、ファッションデザイナー、山吹色 希望の館の元住人、CGクリエーター、桃色 希望の館の元住人、ミュージシャン、白色 新野病院医師 患者の夫 直木司郎宅で張り込みをしていた警官 直木司郎宅で張り込みをしていた警官 新一の家の近所に住む自称天才科学者 黒の組織から来た謎の少女、本名宮野志保 |
高山みなみ 山崎和佳奈 小山力也 高田裕司 小清水亜美 速水奨 声の出演なし 大林隆介 声の出演なし 仲木隆司 辻親八 津久井教生 志村和幸 舟木真人 布目貞雄 小田敏充 声の出演なし 声の出演なし |
血塗られた赤い壁の謎─それが今回長野県警警部の大和敢助警部が小五郎に知恵を借りにきた事件の内容でした。そして彼らの向かう先は森の中に建てられた館…3年前に女性が一人館の倉庫で哀れな遺体で見つかるまでは「希望の館」と呼ばれ、今は「死亡の館」と呼ばれている屋敷だったのです。
「死亡の館」は元々は大金持ちの別荘として建てられたこともあって古いものの立派な建物でした。そしてこの建物が「希望の館」と呼ばれていた頃にはその大金持ちが見込んだ才能はあるが金のない若者たちにタダ同然の家賃で夢が叶うまで住まわせてあげていたというのです。
しかしその大金持ちが病死した後は居住していた人たちも2~3年の間にほとんどが独り立ちして館を出ていき、ここ5~6年前からは館の居住者同士で結ばれたカップルだけが住んでいたというのですが…。
館に住んでいたのはイラストレーターの明石周作、俳優の翠川尚樹、小説家の小橋葵、ファッションデザイナーの山吹紹二、CGクリエーターの百瀬卓人、そしてミュージシャンの直木司郎の6人で、それぞれの名前に入っている各自の色を自分たちの部屋の入口に色紙として貼ったり、食事当番表などで自分たちを識別する目印として使っているようでした。
そして今回小五郎たちが呼ばれたのはこのうちイラストレーターの明石周作が変死していた事件…部屋の入口の前には中に本がびっしり詰まってかなり重いダンボール箱を山積みにされた台車で塞がれて出られないようにされ、大和警部たちが来た時にはすっかり痩せ細って餓死していたという被害者、その被害者が閉じ込められた部屋の中に残されていたある謎を解いて欲しいというのもだったのです。
被害者が閉じ込められていた部屋に残されていたもの、まず一つ目は血塗られた赤い壁でした。幸いそれは人の血ではなくラッカースプレーで塗られたものでしたが、まるで血で塗られたようなおぞましい雰囲気を醸し出していました。
そしてもう一つは部屋の中央に置かれた白と黒の椅子…わざわざ色をつけて床に釘で固定されており、被害者は白い方の椅子に座っていたというのです。
現場には盗聴器も残されていたことから犯人が被害者の生死を確かめるためにここに舞い戻ってきた可能性は低く、とすれば血塗られた赤い壁と白と黒の椅子はどちらも被害者が残したダイイングメッセージと考えるのが妥当でしたが、いったいこの二つは何を意味しているのでしょうか!?
事件のあらましを聞いた小五郎は大和警部から助言を求められますが、納得できるような解答を導き出すことはなかなかできずにいました。そんな答えを聞くためにわざわざ東京まで迎えに行ったんじゃない……大和警部が小五郎にそう言いかけたその時…
賢に見えんと欲してその道を以ってせざるは…猶ほ入らん事を欲して之が門を閉づるが如し…─そう言いながら小五郎たちの前に現れた一人の男。名前は諸伏高明といい、長野県警所轄の新野署の刑事でした。そしてこの人物こそ館に入る前上原刑事がコナンに話していた小五郎に助言を求めてまで大和警部が「絶対負けたくない人」だったのです。
諸伏高明刑事は東都大学法学部をトップで卒業したにも関わらずキャリア試験を受けずにノンキャリアとして県警本部に入ったという変わり者で、ある事件が元で新野署に異動となったものの大和警部とは小学校からの同級生で何かにつけて二人は競っていたらしく、その関係は今でも続いているようでした。そして彼が相手だと大和警部はカーッとなってほとんど勝った事がないというのですが…。
一方コナンは部屋の入口前に置かれていたダンボールの中に入っていた本が3年前に病死した小説家で被害者の明石周作の妻だった小橋葵のものだった事や扉が外開きであることを知らなければダンボールに詰めてドアを塞ぐことができない事から、犯人は以前同居していた残りの4人の中にいる可能性が高いと推理。二人でじっくり話し合うといって別れた大和警部と小五郎とは別行動で、蘭と二人諸伏高明刑事の4人の容疑者の事情聴取に付き合うことになったのです。
すると4人の中でたった一人だけ、明らかに態度のおかしい人物がいたのです。遺体が発見された部屋のドアのノブに指紋が付いていたとカマをかけて反応を見たところ、ミュージシャンの直木司郎だけがあたふたとして聞いてもいないにも関わらず前に来た時画材に触ったかもなどと発言したのです。それを知った大和警部は翌朝、任意同行を求めるために小五郎たちと彼の住むアパートに向かったのですが、到着してみると直木司郎は首を絞められ椅子に座らされた状態ですでに亡くなっており、更に部屋の中には明石周作の時と同じように赤い壁が……
長野県警警部の大和敢助警部に助言を求められて小五郎たちがやって来たのは今は「死亡の館」と呼ばれる場所。かつては才能のある貧しい若者をタダ同然で住まわせていたことから「希望の館」と呼ばれていたものの、3年前に居住者の一人だった女性が亡くなってからはそう呼ばれるようになっていたのです。
その死亡の館で今回発生したのが、ほとんどの居住者が独り立ちしていく中ただ一人館に住んでいたイラストレーターの明石周作が何者かによって館の一室に閉じ込められて餓死させられたという事件。そして被害者の明石はその死に際して部屋の壁一面を赤く塗り、部屋の中央に白と黒の椅子を置き何かを伝えようとしていたのではないかと考えられ、小五郎に頼まれたのはその被害者のダイイングメッセージを解き明かす事だったのです。
そして大和警部がわざわざ小五郎を迎えに行ってまで助言を求めるのには理由がありました。それは今回の事件を担当する刑事の中に、「どうしても負けなくない」人間がいるらしいのです。その人物の名は諸伏高明、三国志の有名な軍師・諸葛亮孔明と同じあだ名を持つ彼は大和警部とは小学生からの同級生で何かにつけて競い合ってきた仲でした。
館を案内された後、コナンは諸伏高明とともに以前死亡の館に居住していた残りの4人の男性に事情を聞きに向かいます。するとその中の一人が明らかに動揺するようなそぶりを見せたのですが、翌日には自宅マンションの一室で絞殺体となって発見されたのです。そして部屋の壁はまたしても赤く染まっており……。
まずオープニング後の前半の頭ですが、前作557「危険な二人連れ」のラストシーンが再度この作品の頭でも追加されています。そのため阿笠博士と灰原哀は原作では登場ありませんが、登場扱いになっています。それ以外は若干のセリフのカット・変更・追加はありますがほぼ原作どおりです。
後半に入ると「賢に見えんと欲して」の部分を蘭が小五郎に解説した後、小五郎が蘭に風林火山は知らなかったくせに何で三国志にはそんなに詳しいんだと言うセリフが追加されています。確かに蘭詳し過ぎです(苦笑)
それ以外はほぼ原作どおりの作りで、ラストにここまでのおさらいと謎の整理をコナンがしてエンディングテーマとなります。
前半については若干のセリフの変更などありますが、ほぼ原作どおりでした。
後半に入ると諸伏刑事の「この謎を解き明かし…我を捕らえてみよと…」のセリフの後に小五郎が自分の推理がイケてると思ったと言いそれにコナンが反論する2コマがカットされていますが、それ以外は細かいセリフの変更・追加・カットはありますが、ほぼ原作に忠実な作りになっています。そして前回に続いてラストにここまでのおさらいと謎の整理をコナンがしてエンディングテーマとなります。
前半については全体を通してほぼ原作どおりですが、最後火事が起き諸伏警部からメールが来たあたりは演出に力が入れられていてシーンの追加も多いです。
後半については原作でコナンが小五郎からゲンコツをもらうシーンがありますが、そこがドリルパンチに変更されているぐらいで、後はほぼ原作に忠実な構成になっています。そして前回に続いてラストにここまでのおさらいと謎の整理をコナンがしてエンディングテーマとなります。
前半後半ともに若干のセリフの変更・カット・追加はありますが、ほぼ原作どおりの構成となっていました。
後漢末期の中国は皇帝の威光はすっかり地に堕ち宦官たちが国を牛耳り乱れた世の中になっていました。そんな中起きたのが黄巾の乱で、太平道の張角を頭に中国全土を席巻しますがそれらを鎮圧に乗り出したのが曹操や袁紹、孫堅、それに劉備などです。
反乱はやがて鎮圧されますが、諸侯が勢力争いをはじめ最初は皇帝を迎え入れた董卓が権勢を欲しいままにします。しかしその暴政は長くは続かず部下の猛将・呂布の裏切りで董卓が暗殺された後は、曹操が徐々に頭角を表し、優れた人材を多数登用し皇帝を迎え入れて力を蓄えると呂布・袁紹・袁術・劉備などのライバルを次々に打ち破って河北一帯をほぼ手中に治めます。この時点でもう曹操の絶対的優位は動かない情勢でした。
一方曹操にいったんは敗れた劉備は河北を逃れて荊州の劉表を頼り、そこでしばらく雌伏の時を過ごしていました。劉備には義兄弟の関羽や張飛、そして趙雲などの一騎当千の猛者はいましたが、軍略を委ねられる軍師と呼べる存在がいなかったのです。
しかし207年運命の出会いが訪れます。それが諸葛亮孔明との出会いで、三顧の礼を尽くして孔明を迎え入れた劉備は、中国南部・長江下流域に勢力を築いていた孫堅の息子・孫権と結んで曹操に対抗。南下してきた曹操の大軍を赤壁で迎え撃ちます。三国志史上最も有名な赤壁の戦いの火蓋が切って落とされ、孔明や孫権の軍師・周瑜の活躍もあって見事に曹操軍を撃退したのでした。
大敗を喫した曹操は天下統一の絶好の機会を逃し、ここに中国は魏の曹操と呉の孫権、そして荊州を押さえた後に蜀に入った劉備の3つの勢力が台頭する三国時代に突入していきます。
その後曹操、劉備と次々に世を去り、劉備から後事を託された孔明はその志を継いで魏を攻めるいわゆる北伐を繰り返しますが、如何せん魏の力は強大であり一進一退を繰り返します。
そして234年、五丈原の戦いの最中に孔明は病に倒れて帰らぬ人となり、孔明のいなくなった蜀は険しい山と天然の要害に守られるものの内部の腐敗もあり徐々に勢力を衰退させ遂に263年に魏に降伏し滅亡します。
その後魏も265年、司馬懿の孫にあたる司馬炎のクーデターにより乗っ取られて滅亡。司馬炎により晋が建国され、その晋が280年に呉を滅ぼし中国全土の統一を果たし、100年近く続いた内乱の時代に終止符を打つことになるのです。
中国の後漢末期から三国時代にかけて活躍した武将で、蜀の劉備玄徳に軍師として迎えられて大活躍するとともに、政治家としてまた発明家としても優れていた賢人です。
今回登場した諸伏高明刑事は明らかに孔明を元に作られたキャラクターで、「高明」はそのまま「孔明」ですが、名字の「諸伏」は諸葛の諸と孔明が青年時代に呼ばれていたあだ名「伏龍」の伏を組み合わせたものだと思います。
内容については作中にあった通りです。劉備玄徳が有名な賢人を自分の軍師として招く際に、相手を呼びつけるのではなく自分で迎えに、しかもわざわざ3度も訪問をした事から、「礼を尽くして優れた人材を招くこと」をこのように呼ぶようになり故事にもなりました。
呉の孟宗が冬に竹林で母の好物である竹の子を手に入れたという故事から「得がたいものを手に入れる」事や「孝心の深い」事のをたとえてこう言います。
今回の舞台となる死亡の館はこの森の中に建っています。名前の由来は間違いなく諸葛亮孔明が魏の司馬懿仲達との戦いの最中その生涯を閉じた場所である五丈原でしょう。死に際して「死せる孔明、生ける仲達を走らす」という有名なセリフが生まれたのもここでの出来事でした。
諸伏高明刑事はここの所轄刑事ですが、新野というのは三国志の英雄・劉備玄徳が200年に曹操に敗れて荊州を治めていた劉表を頼った際に与えられた居城です。それから数年が経過した207年にあの有名な三顧の礼を尽くして劉備は孔明を軍師として迎え、流浪と忍従の生活から蜀一国を建国するまでに勢力を拡大していきます。
俳優・翠川尚樹の芸名。曽根は母方の名字らしく、悪代官役でよくテレビに出ているそうです。
ファッションデザイナーの山吹紹二の経営する店。
CGクリエイターの百瀬卓人の事務所。
作家の小橋葵が書いた小説のタイトル。以前に蘭も読んだことがあるらしく、学校で起こった奇妙な事件を同級生の名探偵が解決する話で、その同級生の名探偵のモデルが彼女と同級生だった諸伏高明でした。
他にも隣のクラスの言葉遣いが乱暴なライバル探偵が出ていて、そちらは同じく彼女の同級生だった大和敢助警部がモデルのようです。
諸伏高明のセリフで、蘭の解説どおり孔子の「論語」の有名な教えの一つで、「忠告して聞けばそれで良し、聞かなければそれ以上の忠告は止めておけ」という意味です。
諸伏高明がコナンの帯同を断った際にコナンのことを「白眉」の少年と言っていましたが、これも三国志から来ている故事の一つです。蜀の劉備に仕えた馬兄弟は皆優れていたのですが、特に優れていた四男の馬良が眉に白髪が混ざり白かった事から、「多くの中ものの中で特に優れている」もののことを「白眉」と言うようになったのだといいます。
所轄内にある病院の名前。
孔明は劉備亡き後はその志を継いで北伐を繰り返しましたが、兵力の差も大きかった上に魏にも司馬懿仲達などの優秀な人材もいたこともあり結局は上手くいかず、234年に志半ばにして五丈原にて陣没します。
孔明を失った蜀は撤退を余儀なくされますが、仲達が当然そのチャンスを逃すはずもなく追撃を開始。ところが崖の上に置かれていた車椅子に座った孔明の木像を見た仲達はまだ孔明が生きていたと錯覚し、慌てて逃げ帰ったというエピソードです。
これは孔明が亡くなる前に前もって授けておいた作戦で、あとでこれを知った仲達は悔しがりますが、このことから転じて。「偉大な人物というものは生前の威光が死後も残っており、人々を恐れさせる」という意味の故事となったのでした。
これも三国志からの故事で「画餅(がへい)」(魏志・盧毓伝)と呼ばれます。日本では「絵に描いた餅」というように使われる有名な諺ですよね。
これは曹操の息子で魏の初代皇帝となった曹丕(そうひ)が吏部尚書という役職の任命の際に盧毓(ろいく)に投げかけた言葉で、地面に描いた餅が食べられないのと同じように名前だけ有名な人物は使ってはならないという事を意味しました。
その事から転じて「実際何の役にも立たない」ものの事をたとえる時に使われます。
兵法三十六計にある計略の一つで、今回登場した諸葛亮孔明が魏の司馬懿仲達相手に仕掛けた他、日本では武田信玄と戦って大敗した徳川家康が用いたことでも有名です。
自分の陣地に敵を招き入れることでかえって「何かあるのでは」と敵の警戒心を誘う計略の事を意味します。これは一種の心理戦で愚かな相手には通用しない策で用心深く知恵に優れた相手だからこそ通用する策ですから、使う際には慎重に検討が求められます。
漢文「戦国策」に書かれている名言。何事をするにもあと一歩という所が一番難しく苦しいのであり、九分(90%)仕上げた所であってもまだ半分と考えて油断なく努力を続けよという意味です。
今回は長野県警の大和敢助警部が再び登場すると同時に諸葛亮孔明のオマージュとも思えるキャラクターも登場して推理合戦となりました。これは明らかに2008年から2009年にかけて公開され大ヒットを記録した映画「レッドクリフ」に影響を受けて描かれた事は疑いないでしょう。赤い壁の謎がテーマでしたからね。
ちなみに三国志が題材になったのはコナンでは2度目で、1度目は325-327「炎の中に赤い馬」でした。この時登場した弓長警部はその後何回も登場するようになりましたので、また長野で事件があれば高明刑事の再登場もあるかもしれませんね。
そして作品は本格ミステリーとしてはなかなかの完成度だったと思いますが、如何せんトリックが読めてしまい犯人も分かってしまったので難易度はそんなに高くなかったのかなという印象です。補色を使って犯人にあえて消される事を前提にしていたというのはなかなか面白いアイデアだったとはおもいますが、「ナオキ」の名字と名前の人物がいた所で何となく気づいてしまいました。あまり意外性を感じなかったので上記のような評価です。
私も三国志大好きで中学生あたりから大学生ぐらいまでの間は特にハマった記憶があるのですが、曹操が好きなので今回はあまり心躍るという事はありませんでしたが、それでもいろいろと知っている故事なども出てきて楽しい時間を過ごせました。
ただ蘭、中国の諺とかいろいろと知っていますよね、あまりにも博学なのでちょっとビックリしました。そして今回は小五郎はさほど出番もなかったのでそんなに違和感なく作品を楽しむことができました。