(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 毛利蘭 毛利小五郎 横溝刑事 笹井宣一 今竹智 山田 中年男 男性アナウンサー 女性アナウンサー |
本編の主人公、正体は工藤新一 本編のヒロイン、新一の幼なじみ 蘭の父親で私立探偵 埼玉県警警部 作家、著書に「オーストラリア紀行」 直本賞受賞作家 「月刊文芸時代」編集部員、今竹の担当 ホテルの乗客 TVアナウンサー TVアナウンサー、天下一春祭を中継 |
高山みなみ 山崎和佳奈 神谷明 大塚明夫 青野武 島香裕 鈴木清信 高木渉 千葉一伸 吉田古奈美 |
埼玉県にある三村山に「天下一」の形に火を焚く行事として有名な天下一春祭。すっかり闇に包まれた三村山に「天」の文字がゆっくりと点火されていく場面がTVに映し出されている頃、付近にある桶山ホテルの一室では一人の男が外へ出かける準備のため忙しそうにしていました。
男の名前は笹井宣一。直本賞受賞作家の今竹智とは以前コンビを組んで作品を発表したこともある間柄で、今夜もその今竹の受賞を祝うためにこのホテルに宿をとったはずでした。しかし…
今笹井はつばの広いキャップを被りサングラスをかけ、首には口元を覆い隠すようにしてラベンダー色のマフラーを身に纏っていました。そう誰にも顔を見られないようにするために…そしてまるで物盗りが侵入したように見せかけるために部屋の中を荒らし終えると…
─今竹の奴は、呑気に歯なんか磨きながら財布を取りに戻って来た自分に文句ばかり言ってきやがる。こう慌しいのではおちおちゆっくりもしていられないだと…? だったら思う存分ゆっくりさせてやろうじゃないか…そう、もう何も考えなくても済むように…
部屋を出た笹井は仕上げに今竹の財布から金を抜き取り、ホテルを飛び出して付近の川へとやってきます。橋の上まで来ると、ピストル、上着、マフラー、サングラスを投げ捨てて…黄色い使い捨てカメラを手に一人勝ち誇ったように薄ら笑いを浮かべながら川の底に沈んでいくサングラスを眺めていたのでした。
一方夜祭の会場ではついに「一」の字も点火されて、祭りは最高潮へと達している所でした。それを楽しそうに眺めている浴衣姿の見物人たち。そしてその中には小五郎と蘭、それにピンクの風船をぶら下げてちょっぴり恥ずかしそうなコナンの姿もありました。どうやらもうすっかり祭りを楽しんだ様子の三人でした。
そんな三人のもとに、息を切らせて駆けてくる一人の男がいました。男はどうやら祭りに遅れてしまったようで、慌てて会場に駆けつけた様子。日焼けした健康的な肌にアゴの長い顔が印象的なその男は、汗を拭いながらせめて記念になればと蘭たちに天下一の文字をバックに写真を撮ってくれるように頼みます。そしてお礼にと一冊の本を蘭に差し出します。彼は笹井宣一といい「オーストラリア紀行」というタイトルのその本を書いた張本人でした。そして彼は直本賞受賞作家・今竹智と知り合いで、今日も今竹を連れてこの夜祭に彼の受賞を祝うためにやって来たというのです。それを聞いて嬉しそうなミーハーな蘭でしたが…
そこへ現われたのは、珊瑚のような頭に迫力のある大きな顔をした、茶色いスーツ姿のがっちりとした体格の男でした。男はすぐに「埼玉県警 横溝正文」と書かれた黒い手帳を開いて見せ、笹井を睨みつけながら自分が刑事であることを伝えます。横溝刑事の話では、どうやらこの近くで殺人事件が発生したらしく、しかもその被害者が何と目の前にいる笹井宣一の友人である作家の今竹智だというのです。
それを聞いてひどく驚いた様子の笹井でしたが、どうやらその笹井には彼を殺す充分な動機が…。そして横溝刑事はどうやらその彼をひどく疑っているようでした。
しかし現場の桶山ホテルに向かい、捜査を開始した横溝刑事と小五郎たちは、その笹井に鉄壁のアリバイが存在することを知って……
今回の事件はコナン史上初の倒叙ミステリです。倒叙ミステリというのは犯人ははじめから分かっていて、その犯人の犯行現場がまず描かれ、その後その犯人を探偵が追い詰めていき、犯行を暴き立てる型のミステリで、刑事コロンボや古畑任三郎などの推理ドラマでお馴染みの手法です
犯人が犯した致命的なミス、それを見破るのが探偵と読者&視聴者に科せられた使命となる訳ですが、果たして皆さんはそのミスを見破ることができたでしょうか?
もう一点はサンゴ頭の横溝刑事が初登場。レギュラー陣の中ではかなり早い段階で登場したキャラクターです。最初から画面に入りきらないくらいの大きくて迫力ある顔をしていました(笑)
そしてコナンに登場する刑事の中では数少ない有能な刑事として本編でも大活躍してくれます。
細かい所ですが、アニメの方では横溝刑事が開いて見せた警察手帳の中に彼の名前がきちんと出ていました。「正文」となっていて、これは名前の元になった金田一耕助シリーズで有名な作家・横溝正史氏のもじりだと思われます。
ただ現在はすでに「参悟」という名前が付けられています(34巻、284・285「中華街 雨のデジャビュ」参照)。やはり珊瑚(サンゴ)頭だからなのでしょうかね(苦笑)
毎年春に埼玉県で開催されているその年の豊作を願う祭りで、メインイベントは三村山に「天」「下」「一」の三文字が順番に点火されていく文字焼きの儀式。もちろん本編で語られている通り、京都で毎年お盆の8月16日に行なわれる大文字焼きの儀式がモデルになっているものと思われます。
ちなみに文字焼きというのは他にもあるそうで、京都の文字焼は「五山の送り火」というのが正しい呼び方だそうです。
詳しくは京都ネットというサイトの五山の送り火のページを参照下さい。
埼玉県にある山で、天下一春祭の文字焼の儀式が行なわれる山。アニメでは「みつむらさん」と呼ばれていました。
天下一春祭が開催されている近辺にあるホテルで、今回の殺人事件の事件現場。車で約40分ほどで祭りの会場に到着できるというのが、今回の事件のアリバイのポイントにもなっています。
今回の事件の犯人である笹井宣一が書いた紀行ものの小説。ちなみに笹井が色黒いのは取材で各地を飛び回っているからだそうです(本人談)
今竹智と笹井宣一が「今井ともかず」のペンネームで書いた小説。蘭も今井ともかずの大ファンだったらしく、中学時代たくさん読んだそうです。世間では直本賞受賞作家である今竹がデビュー当時使っていたペンネームとして認知されているようです。
なおこの2つの作品名は原作のみ登場し、アニメではカットされて出てきません。
文学賞の一つで、今回の事件の被害者である今竹智はこの賞を受賞して一躍有名になりました。元になっているのはもちろん直木賞ですが、芥川賞とともに日本の文芸界では権威ある賞としてどちらもすっかりお馴染みですよね。
ちなみに芥川賞というのは「羅生門」や「蜘蛛の糸」で有名な作家の芥川龍之介が名前の由来ですが、直木賞の方は大正末期から昭和初期にかけて作家・評論家として活躍した直木三十五がその名前の由来です。
詳しくはウィキペディアの直木三十五のページを参照。
直本賞を受賞した今竹智が現在大河小説「剣勇伝説」を連載している雑誌。
桶山ホテルからほど近い所にある駅で事件解決後に登場。ここでも小五郎が最高度に笑わせてくれました(笑)
倒叙ミステリということで今回は犯人当てはない訳ですが、それでもストーリーは相変わらずよく練られていて充分楽しめると思います。
それにしても大胆不敵な犯人ですよね(苦笑) あんなに目撃者がいる所で犯行を犯すというのは余程自信があったということなのでしょうか? しかし警官とか格闘家とか、頑強そうな人間が近くにいたら、トリックを仕掛ける前に一発で取り押さえられる可能性もあるのに…繰り返しますが全く持って大胆な犯人です(苦笑)
そして伏線の張り方も大胆でしたね。目の前に何度も日焼けの痕は出てきている訳ですから(笑)、気づかずに解決編で結末を知った方は本当に悔しかったことと思います。ミステリとしてはそれなりに楽しめる作品ですが、日焼けの痕だけが決定的証拠だけに、これに気づいてしまったらあとは退屈かもしれませんね。
ただ初登場となった横溝刑事が執念深く笹井を追い詰めていき、またその笹井が横溝刑事に対して挑戦的な態度を崩さなかったため、決定的な証拠が提示されて笹井が観念した時は本当にスッとしたと思います。そのような感じで勧善懲悪という部分で楽しめる作品でもあります。
そしてラストは、初期作品の中では最も気に入っているエピソードです。特に原作では横溝刑事が部下にもっと笑うようにドンとどつくだけなのですが、アニメの方では部下に「笑えこの野郎!」とおそらく大塚明夫氏のアドリブだと思うのですが、愛想笑いしながら言っている部分があって、そこが大爆笑でしたね(笑) ぜひ音量を大きくしてよく聞いてみて下さい。かなり笑えます。