(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 毛利蘭 毛利小五郎 目暮警部 高木刑事 トメさん 小林刑事 片桐正紀(45) 松平守(24) 長良ハルカ(25) 藍川冬矢(26) 下笠穂奈美(21) 下笠美奈穂(21) 蘇芳紅子(63) 稲葉和代(40) |
本編の主人公、正体は工藤新一 本編のヒロイン、新一の幼なじみ 蘭の父親で私立探偵 警視庁捜査一課警部 巡査部長、目暮の部下 鑑識員 目暮の部下 風景写真家 プロ野球選手、ホームラン王 タロット占い師 ロックシンガー 蘇芳家 メイド、東の部屋担当 蘇芳家 メイド、西の部屋担当 歌手・紅プロモーション社長 蘇芳紅子の秘書 |
高山みなみ 山崎和佳奈 神谷明 茶風林 高木渉 中嶋聡彦 布目貞雄 野島昭生 石井康嗣 淺川悠 緑川光 飯島京子 長沢美樹 谷育子 松岡洋子 |
翌週に交通事故遺児救済のチャリティー・ショーに出演ることになった小五郎は、コナン、蘭とともにその主催者である蘇芳紅子のパーティに招待され、その日はこのパーティに出席するため車で彼女の邸へ向かうところでした。
小五郎の話によると、蘇芳紅子というのはかつては〈東洋のカナリヤ〉と呼ばれた有名な歌手で、現在は紅プロモーションという芸能プロダクションの経営に多忙な日々を送っているといいます。
邸へ向かう途中、蘭とコナンは小五郎の荒っぽい運転を見かねて思わず諌めますが、小五郎はいつも通り相変わらずのん気な様子で運転を続けます。
しかしやはりタダで済むはずはありませんでした。調子に乗ってカーブを曲った小五郎は、道路の真ん中には巨大な木が横たわっているのを見つけて慌ててブレーキを踏みます。
間一髪の所で停止し何とか衝突を免れた小五郎は車を降りて道路の様子を見に行きますが、するとそこに横たわっていた木には白い紙が貼り付けてあり、新聞・雑誌の切り抜きでこう書かれていました。─「すおうべにこのチャリティーに協力するな後悔するゾ 呪い仮面の使者」
そうこうするうちにようやく蘇芳紅子の邸に到着した3人は、そのあまりに見事な大邸宅にしばらく見とれていましたが、同じ頃世界中を旅する風景写真家の片桐正紀、ホームラン王のプロ野球選手・松平守、そしてその松平も占いのラッキーカラーを見て手袋の色を決めているという、テレビや雑誌で人気の美人タロット占い師・長良ハルカの3人も邸に到着。お互いに挨拶を交わし合います。
それから一行は中に入ろうと入口の前までやってきますが、何と邸には二つの入口が…。どちらから入ればいいのかと迷っていると、両方の入口がそれぞれ開き、中から蘇芳家のメイドが現れます。
双子の姉妹だという二人のメイド・下笠穂奈美・美奈穂の話では、邸の中は内部で西と東に分かれていて、それぞれ泊まる部屋の側の玄関から入場するのが邸のしきたりだというのです。そしてしきたりを破れば呪いの仮面により災いがもたらされる……それを聞き聞きあまりの怪しげな雰囲気に戸惑う一行でしたが、言われるまま小五郎一行は東から、それ以外の客は西入口から入室していきます。
そしてメイドの案内のまま通されたのは、館で唯一西側と東側がつながっているという”仮面の間”でした。
”仮面の間”の中はその名の通り古今東西の仮面のコレクションが収められいて、コナンたちは興味を持ってそれらを見ていましたが、その中でも一際興味を引いたのが白地に目と口の部分が全て同じ形にくり抜かれ、不敵な笑みを浮かべた200枚の仮面のコレクションでした。
その時秘書の稲葉和代とともに部屋に入っていた邸の女主人蘇芳紅子の話によると、その仮面のコレクションは〈ショブルーの仮面〉またの名を〈呪いの仮面〉といって、有り余る才能を持ちながらそれを妬んだ兄弟子によって全てを奪われたという悲劇のスペイン人彫刻家・ショブルー・ゴンザレスが、亡くなる直前に何かに取り憑かれたように作り上げものだというのです。
その後ゴンザレスは完成と同時に自ら命を絶ちますが、その亡骸のそばには完成した200枚の仮面が返り血を浴びて散乱し、まるで仮面が生き血を啜ったかのように見えたといいます。
そしてショブルーの仮面はそれから様々な人間の手に渡りましたが、その所有者は決まって不幸な最期を遂げたといい、そんな所からその仮面は所有者の生き血をすする〈呪いの仮面〉と呼ばれて恐れられるようになったというのです。
話がどんどんオカルトじみていく中、小五郎は邸に向かう途中で受け取った例の警告状を蘇芳女史に見せますが、すると何と小五郎以外の招待客も同じ警告状を受け取っているというのです。その時遅れてやって来た現在人気ナンバーワンのロックシンガー藍川冬也も、同様に同じ内容の手紙を受け取っていたといいます。
警察に連絡するよう蘇芳女史に勧める小五郎でしたが、女史はこの手の嫌がらせは良くある事だと言い、話はそこで打ち止めにされてしまいます。
夜になり、東館一階の食堂に集った小五郎たちは舌シチューやワインを楽しみ、その後時が経つのも忘れてビリヤードやチェスに興じますが、そうしているうちに例の双子のメイドが現れて、またおかしなことを言い出します。
二人の話では、邸では0時を過ぎると「仮面が勝手に一人歩きする」ことがあるため、それを防ぐため”仮面の間”に通じる東西の扉に鍵をかけるしきたりになっていて、鍵をかけた後は西側と東側が行き来が出来なくなる。そのためその前に部屋に戻るようにとのことでした。
そして深夜0時…東側2階の部屋で休んでいたコナンは小五郎の豪快ないびきでなかなか寝付けないでいました。するとそこへ突然内線電話のベルの音が響きわたります…。コナンが出てみると、〈呪いの仮面の使者〉を名乗る者から電話が─「呪いの仮面は血に飢えている。早くしないと犠牲者が出るぞ」
それを聞いた小五郎たちは、直ちに施錠された”仮面の間”にあるはずのショブルーの仮面を調べに行きますが、"仮面の間”に到着してみると、何とそこにあるはずのショブルーの仮面200枚がすべて消え去っていたのです。
驚いている一行はその時蘇芳女史のいる上の階から妙な物音を聞きつけます。蘇芳女史のことが心配になった小五郎とコナンは、西側3階にある蘇芳女史の部屋に向かうため、メイドを起して”仮面の間”の西側へ向かう扉を開けさせ3階に向かいます。
女史の部屋まで来た小五郎たちですが、部屋は内側から施錠されていて、中には入れません。そこで扉の上にある小さなガラス窓を破って小五郎が中を覗いてみると…部屋の中では蘇芳女史が、まるで自ら命を絶ったあの悲劇の彫刻家ショブルー・ゴンザレスのように、散乱したショブルーの仮面たちの中に埋もれ、ベッドの上で血塗れになって横たわっていたのです……
今回のターゲットは写真家の片桐正紀、占い師の長良ハルカ、そしてロック・ミュージシャンの藍川冬矢、と有名人揃い。ちなみに松平守には小五郎がミーハーぶりを発揮していました(笑)
コナン史上類を見ないバリバリの本格ミステリーです。本格ものとしてはシリーズ全作品中でも5本の指に入るほど素晴しい作品でした。
かなりあらすじが長いですが(苦笑)、それもそのはずそれだけ今回は事件が起きる前にしっかりと伏線が仕掛けられています。怪しい動機も出揃っていて、犯人・トリック・動機と全てを当てる楽しみがあります。
その中でも何といっても密室トリックを当てるのが難しいですが、これは本当にすごいトリックでした。出来るかどうかということはあまり議論したくないのですが、とにかく面白いアイデアだと私は思います。
またこの作品は本当に話の構成が上手く、ストーリー展開・テンポも絶妙でした。オカルトじみているところは徹底してオカルトじみていますし、笑わせてくれる所は徹底して笑わせてくれます。事件発生時の様子もとても緊迫していてサスペンス感に溢れていました。
更に登場するキャラクターも怪しげな双子のメイドをはじめホームラン王、美人占い師など個性豊かで印象度も強く、彼らを見ているだけでも充分楽しいです。シリーズキャラクターも小五郎、蘭をはじめ、目暮&高木、トメさんが登場してそれぞが持ち味を出しています。
以上本格ものとしての出来、ストーリーの面白さ、キャラクターの魅力と全てが満点に近い作品です。難点を挙げるとするならばこういう怪奇・オカルトっぽい話が怖いという方には向かないというくらいでしょうか。それにしてもそれ程ひどく怖い話だとは思いませんが(笑)。作風が私の好きな本格ミステリー作家のジョン・ディクスン・カー先生に一番近い感じがします。本格ファンでも充分楽しめる作品ですね。
ここからはネタバレになりますが、上でも書いたように今回は犯人・トリック・動機といろいろ当てる楽しみがありますが、なんと言ってもメインは密室トリックでしょうね。これはかなり意外性があって面白かったです。
私はどちらかというと心理的・視覚的な盲点を突いたトリックが好きだということはいろいろな所で言っていますが、今回は物理的トリックではあるものの、その仕掛けの意外さとアイデアの面白さが相俟ってとても素晴しいトリックに仕上がっていると思います。物理的トリックも知恵を絞ればこういった素晴しいものもできるんだなと感心しました。また密室状態が二重になっているのも面白いですよね。非常に設定が上手かったです。
難点を挙げるとすれば二重密室(女史の部屋の扉の施錠と、唯一東西を行き来できる”仮面の間”の扉の施錠です。即ち東側の人間は犯行現場の西側3Fに行くためにはこの二つの施錠を何とかしなければならないということになります、念のため)だと分かると、当然東側の人間が犯人だと見当がつく訳ですが、その東側の人間というのが小五郎たちを除くと2人しかいないということですね。もう一人くらいいるともっと複雑で面白かったですが、そこまで要求するのは酷かもしれません。
というよりも今回は1時間SPだったので、前後編の場合のように途中で推理している時間がありませんでした。それも考えて、製作者側もあまり複雑にはしなかったとも思えます。
いずれにせよ完成度はかなり高い作品だと思います。