(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 毛利蘭 毛利小五郎 白石覚志(30) 白石扶美子(27) 辰村慎介(45) 折田精一(60) 小杉大助(22) 前園仁美(25) 高隈酒造先代 近藤洋介 吉留省吾 徳住有香 気象予報士 新福刑事 大竹山刑事 |
本編の主人公、正体は工藤新一 本編のヒロイン、新一の幼なじみ 蘭の父親で私立探偵 高隈酒造 当主 覚志の妻 高隈酒造 専務 高隈酒造 蔵子 高隈酒造 蔵子 〈週刊エンタ〉の雑誌記者 白石覚志の父、昨年冬に病死 鹿児島日売テレビ 局長 鹿児島日売テレビ プロデューサー 鹿児島日売テレビ アナウンサー ニュース番組の気象予報士 鹿児島北警察署 刑事 鹿児島北警察署 刑事 |
高山みなみ 山崎和佳奈 神谷明 山賀敦弘 日野由利加 屋良有作 石森達幸 井上智之 中村千絵 声の出演なし 楠見尚己 鳥海勝美 徳住有香 岡本奈美 宮田浩徳 千葉一伸 |
鹿児島日売テレビの開局を記念した特番に、ゲストとして招かれた小五郎。酒好きな有名人をと考えていた当局が、ご当地薩摩の本格焼酎を大々的にPRするためのうってつけの人物として招待し、小五郎本人も得意分野ということもあってか、収録が始まると酒の素晴らしさについて熱く語り始めたのですが……
何とか特番の収録を無事乗り切った小五郎を待っていたのは、本格薩摩焼酎の中でも特に逸品として名高い〈高隈〉を飲ませてもらえるという、酒好きの小五郎にとっては何ともたまらないご褒美でした。
完全限定生産なため、なかなか手に入らないことから「幻の焼酎」とも呼ばれる酒が飲めると聞き、小五郎は感激の涙を流すほど喜びを隠し切れない様子。
その周囲をはばからない嬉しがりように蘭は呆れますが…早速フェリーを使い〈高隈〉を製造している蔵元・高隈酒造のある垂水へと向かうこととなったのです。
垂水に到着し高隈酒造を訪れた小五郎は、当主である白石覚志とその妻扶美子の出迎えを受けた後事務所に案内され、早速そこで幻の焼酎〈高隈〉をご馳走になります。
〈高隈〉のあまりの美味しさに、小五郎はただただ「美味い」としか言葉が見つかりませんでした。しかしそれもそのはず、高隈酒造では、〈高隈〉を作るために長い作業の間ずっと手作りを心がけているというのです。
すべてを手作りとし、現在の品質を維持していくためには、今の生産数が限界らしく、今以上の数の酒を製造することはやろうと思ってもできないのだと、苦笑いしながらも自分たちの酒造りを誇りを持って話す当主の白石や蔵子たちに、小五郎たちもいたく心を打たれます。
ところがこの高隈酒造、実は最近一つの悩みを抱えていたのです…。それは先代当主の頃から営業として蔵元を支えてきた、専務・辰村慎介の突然の心変わりでした。
辰村は近年の焼酎ブームに乗り、すっかり定着した〈高隈〉のブランドを利用して、作業を機械化し大量生産をして大儲けをしようと一人画策しているというのです。
しかし当主の白石をはじめ、他の蔵子たちはそのような気は毛頭なく…そのため辰村とは事あるごとに衝突を繰り返しているというのでした。
その日も辰村は宣伝のため、当主の白石の承諾も得ずに雑誌記者の前園仁美と取材の約束と交わしていましたが、大量生産をして儲けようというあからさまな意図を知った前園は、焼酎のファンとしては納得できないと逆に取材を断る事態に…
そこで辰村は、今度は偶然蔵元に来ていた小五郎に宣伝に一役買ってもらおうと、〈高隈〉を好きなだけ送ることを条件に、イメージキャラクターになって欲しいと申し出てきたのです。
酒の誘惑に弱い小五郎はその話を無下に断ることができず…結局明日が休日の辰村の代わりに案内役を買って出た当主の妻・扶美子の案内で、鹿児島の観光を楽しんでから結論を出すことになったのです。ところが…
次の日、小五郎たち3人は扶美子の案内で仙厳園などをまわり鹿児島観光を楽しみますが、その中途で扶美子から高隈酒造の歴史について話して聞かされ、本物の酒を守るため、小五郎に辰村専務から依頼されたイメージキャラクターの役を断るように頼まれたのです。
一時は廃業寸前に追い込まれたこともあったという高隈の波瀾万丈の歴史を聞かされた小五郎は、〈高隈〉ブランドを傷つけかねない辰村の話を断ることを快諾。
それからそのことを伝えるため、鹿児島市内で独り暮らしをしているという辰村の家へ向かったのです。ところが、そこで小五郎を待っていたのは何と…
辰村を呼びに中へ入った扶美子の悲鳴を聞いた小五郎は、慌てて中に入り、リビングの床の上に血に染まった彫像が転がっているのを発見したのです…!!
現場の状況から、辰村は休日リビング休んでいた所を何者かによって背後から襲われ、彫像で殴り倒されて連れ去られたものと考えられたのでした。
誘拐事件…一体誰が、何の目的で…?ところが警察の懸命の捜索が続く中、事件は二日後鹿児島市内の公園で、辰村が頭を殴られて無惨な遺体となって発見されるという、最悪の結末を迎えることとなったのです…
事件を担当することとなった鹿児島北警察署の新福刑事は、辰村の部屋が荒らされた形跡がないことから怨恨の線で捜査を開始。
そして捜査の結果、辰村に対し恨みを持っていた人物が、高隈酒造の人間以外は考えられないことが分かり……
今回のコナンは始めて鹿児島を舞台に事件が展開されます。メインは小五郎。そして小五郎の好きな酒、それも鹿児島名物の本格芋焼酎の蔵元で事件が発生と、小五郎ファンにはたまらない内容となりました。
小五郎の魅力全開のストーリーに加え、本格ミステリとしてのなかなかの作品に仕上がっています。前編だけでも充分犯人もトリックも当てることが可能な作品ですので、一度じっくり推理してみるのも楽しい作品かと思います。
今回のお話は小五郎がこのテレビ局の開局記念特番へのゲスト出演を依頼されたことが発端となっています。局長の名前は近藤洋介。アナウンサーでは徳住有香という女性アナウンサーが小五郎にインタビューしていました。
ちなみにこのテレビ局のモデルは鹿児島読売テレビで、アナウンサーは実際に活躍されている女性アナウンサーが実名で登場しています。放映前には今回のお話の特集ページも作成されていました。
近年ブームとなっている焼酎の中でも、特に有名な本格薩摩焼酎の銘柄。完全限定生産のためなかなか手に入らず、そんな所から「幻の焼酎」とも呼ばれている逸品中の逸品です。
薩摩焼酎の作り方は、洗った米を蒸し、こうじ菌を混ぜ、できた米こうじをかめ壷へと移し、水と酵母を加えて発酵させる。そこへ蒸したサツマイモを加え、更に発酵させる。その間温度を一定に保つのと雑菌を繁殖させないためにかい棒でかき混ぜ。それから蒸留し、熟成させ、割り水をしてやっと完成します。
高隈酒造では、これらの作業の間ずっと手作りを心がけているため、機械で大量生産している焼酎とは比べ物にならないほどの美味しさになるというのです。
ちなみに〈高隈〉というのは現実にある焼酎のブランド名ではないそうです。今回の話のモデルとなっている焼酎の名前は実は〈森伊蔵〉という焼酎で、このお酒も今回のお話同様に、幻の焼酎として、焼酎ファンの間ではよく知られている逸品中の逸品です。
詳しくは森伊蔵酒造の公式ページを参照下さい。
完全限定生産の本格薩摩焼酎を製造している蔵元。鹿児島駅からフェリーで鹿児島湾を渡って丁度反対側のところにある垂水という場所にあります。鹿児島湾に面し近くには高隈山という山も見える景色のとても綺麗な所にあります。
歴史は古い蔵元ではあるものの、薄利多売の大手メーカーの生産力には太刀打ちできずに10年前に一時は廃業寸前まで追い込まれますが、そんな中で開き直り、自分たちの思い通りの、原料にも作り方にも徹底的にこだわった最高の酒を作って幕を閉じようと酒を作ってみたところ、これが大当りし、本物の焼酎として人々に知られるようになったというのです。
昨年の冬、長年の心労がたたって先代当主は病没。現在は息子の白石覚志が社長として蔵元を取り仕切っています。
幻の焼酎〈高隈〉を製造している高隈酒造の名前の由来となっている山。当然〈高隈〉のブランド名もこの山が由来といえます。高隈酒造の事務所には、この山を撮影した写真も飾られていました。
高隈酒造のそばに建っていた像は、薩摩藩士として江戸末期から明治時代にかけて活躍した西郷隆盛の像でした。
高隈酒造を訪れた小五郎たちが宿泊したホテル。
言わずと知れた鹿児島にある活火山の名前。現在も活発で、この山から噴出す火山灰は雪のように降り積もるため、鹿児島の天気予報では桜島上空の風の向きについても情報を流しているそうです。
(せんがんえん)と読む。当主の妻・扶美子の案内で鹿児島観光をした小五郎たちが訪れた場所の一つ。
江戸時代初期の1658年に薩摩藩の第19代当主・島津光久が別邸として建てた庭園で、桜島を築山に、錦江湾を池に見立てるといういわゆる借景庭園であることが大きな特徴です。現在は鹿児島の観光スポットしてよく知られています。
詳しくは仙巌園のホームページを参照下さい。
今回の作品は鹿児島を舞台にした特別編で、実際の酒蔵を綿密に取材してきたのだろうなということが容易にうかがえるほど酒蔵での仕事ぶりなどもリアルに描かれていましたし、脚本・作画ともかなり力が入っていたと思います。
またご当地鹿児島読売のアナウンサーもゲスト出演するなど、製作スタッフの意気込みがひしひしと感じられましたね。
それで肝心の作品はというと…当サイトで毎回行なっている評価アンケートを見た限りでは他の作品に比べてかなり厳しい評価だった気がしますが、しかし私自身個人的にはミステリーとしては相当よくできた作品だったと考えています。
犯人当てについていえばさして難しくないとは思いますが、小五郎たちを証人にして、前もって採取しておいた血液を現場に残し、ほんの数分前に犯行が行なわれたと錯覚させ、警察の捜査が一通り終わった後に、殺害を行なう。そして殺害時刻を曖昧にするために、2日後に発見させるという方法については、実に見事だったと思います。警察の捜査が始まってから殺害されたというのは本当に盲点ですよね。
そしてそれを桜島特有の灰の付着の有無で探偵役のコナンに気づかせるというのも、舞台設定を活かした良い伏線だったと思います。
また犯人が被害者に健康診断を勧めた理由についても、血液を採取する時に同じ箇所に注射することで、痕跡があっても疑われないようにするためだという所も実に見事で、目からウロコでした。
以上の2つに関してだけでも本格ミステリーとしては上出来だったと思います。
ただあまりミステリを読まない方でもツッコミたくなるような部分も見られたことが、皆さんの評価を落とした理由の一つかもしれませんね。
特にあの凶器となった像はすぐに用意できるようなものには見えませんでしたし、すぐに凝固してしまう血液をどう保存していたのかとか、そんなあたりがもう少し丁寧に描かれていれば、もっと良い印象を持ってもらえた気がします。
それから動機というか、ラストの結末も少し疑問に感じました。大量生産で味を落とそうとしている被害者を消すことで蔵を守るためといいますが、やはり殺人などが起きれば蔵のイメージダウンは避けられませんし、蔵の皆に迷惑がかかるのは必定です。それでも危険を冒して被害者を抹殺することが「義理堅い」とは皆さん思いませんよね。逆に先代の恩を仇で返すことになるだけだと思います。
それにラストの旦那の「待っているから」というのも、何だか少し違う気がしました。本当ならこんな馬鹿なことをしたのですから、叱りつけてやらなくてはおかしいと思いますし、それに長年連れ添ってきた相手がこんなことになれば、動揺してもっとショックを受けると個人的には思います。殺人ってとても重い犯罪ですからね。
あとはコナンもそういった旦那の気持ちも考えて公で推理するのは控えるべきじゃなかったかと思います。あれでは皆の晒し者ですから。そういう所がどうも現実的ではないというか、どこか変に感じたというか…皆さんの評価が上がらなかった理由の一つかなと思っています。
個人的には、犯人が実際に皆が思っていたのとは違うとんでもない悪女で、陰で悪いことをやっていて、それを被害者に知られそうになって口封じのために殺害したとか、そんな形の方がすっきりしたと思います。
そうであれば動機にも意外性がありますし、ミステリとしてもより幅が広がるというか、厚みが出たと思いますね。
ということで今回の作品は良い面もあれば悪い面もあって、傑作として勧めることはできませんが、だからといって駄作でもなかったと思います。
特に本格ミステリ好きな方なら、それなりに楽しい時間を過ごせた内容ではなかったでしょうか。