(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 阿笠博士 灰原哀 吉田歩美 小嶋元太 円谷光彦 紺野由香(7) 紺野雅子(35) 坂口慎也(40) ペットショップ店員 チッチ(2) |
本編の主人公、正体は工藤新一 新一の家の近所に住む自称天才科学者 黒の組織から来た謎の少女、本名宮野志保 帝丹小学校に通うコナンのクラスメート 帝丹小学校に通うコナンのクラスメート 帝丹小学校に通うコナンのクラスメート 帝丹小学校1年C組の生徒 由香の母、ガーデニング店経営 由香の友人、米花大学工学部 研究所員 ペットショップの店員 由香の飼っているセキセイインコ |
高山みなみ 緒方賢一 林原めぐみ 岩居由希子 高木渉 大谷育江 田村ゆかり 佐々木優子 村冶学 川瀬晶子 ??? |
ここ3日間、11月下旬の気温が続いた米花市内。その日帝丹小学校では、季節外れの厳しい寒さに身を震わせながら足早に学校を後にしようとする探偵団たちの姿がありました。
本来ならさっさと家に戻って暖かい部屋の中でくつろぎたいところでしたが、その途中一人の少女が校庭の隅にある飼育小屋の前でじっとたたずんでいるのを見つけると、持ち前の好奇心が顔を出し始め、探偵団たちは彼女のそばにかけよってその理由を尋ねたのです。
その少女は名前を紺野由香といい、探偵団たちの1年B組の隣りのクラス、C組の女子生徒で、彼女が飼育小屋の前で鳥を観察している姿は、元太によってこれまでにも数多く目撃されていたのでした。
しかしそれも当然のこと、実は彼女は鳥が大好きで、自分の家の中で青い色のセキセイインコを一羽飼っているほどだったのです。
2歳のオスで手のり、そして少しだけとはいえ言葉も話すらしく…由香の嬉しそうに話す姿に興味を惹かれた探偵団たちが是非見てみたいと由香に願い出ると、由香はその申し出を快く承諾し、結局探偵団たちはその日のうちに由香の自宅を訪問し、インコを見せてもらうことになったのでした。
一方最初は大勢で押しかけては申し訳ないと遠慮気味だったコナンと灰原哀も、由香の夕方までは自分一人だから大丈夫…という言葉に安心し、探偵団たちと一緒にインコの見学に付き合うことに決めます。
もっとも由香の言葉から察するに、彼女が夕方まで一人でいるというのにはどうも訳ありなところがあるらしく…
実は由香の両親のうち父親の方は2年前に病気で他界しており、現在は母親が女手ひとつで娘の由香を育てているというのでした。
その事実を知ったコナンは、彼女の寂しさを紛らわすことができるなら…と、励ます意味も込めて探偵団たちとともに紺野宅を訪れることに決めたのです。
急な坂道をセキセイインコについての話題で盛り上がりながら何とか登り切り、ほどなく一行は丘の上に立つ由香の自宅に到着します。
そして彼女の案内で玄関の扉を開けて中に入ろうとしますが、誰もいないはずの彼女の自宅はなぜか玄関の扉の鍵が開いており……
泥棒…!? そう直感し思わず身構える探偵団たちでしたが、コナンが慎重に様子を窺ってから扉を開けると、中からはボサボサ頭に無精ひげを生やしたメガネの中年男が飛び出してきたのでした。
どこか慌てた様子の彼は名前を坂口慎也といい、米花大学の工学部の研究所に勤めている研究者らしく、自分は由香の母親で杯戸町でガーデニングの店を経営している紺野雅子の友人だと説明。
雅子とは鍵の隠し場所を教えてもらっているほどのかなり親しい間柄らしく…その日もどうしても仕事で遅くなってしまうという雅子から由香と二人で外で食事をするようにと頼まれ、ひと足先に由香の家を訪れて彼女の帰りを待っていたというのです。
それを聞いた探偵団たちは思わず由香の方を見やりますが…ところが由香は坂口のことを「知らない人」と冷たく言い放ち、さっさと探偵団たちを引き連れて家の中に入っていってしまったのです…
そこにどんな理由があるのかは分からないものの、どうやら由香が坂口のことを快く思っていないのは明らかでした。
由香の家の中に案内された探偵団たちは、ガーデニングの店をしているという由香の母親のセンスの良さを感じさせる洋風の広い部屋と、窓から見えるきれいな庭に感嘆の声を漏らし、それから窓のそばに置かれた鳥かごの方へと歩み寄り、中にいる由香のセキセイインコのチッチを見学します。
そのきれいな羽根の色とかわいらしい仕草に探偵団たちは再び感嘆の声を上げますが、肝心の由香はというと…どうも浮かない表情でチッチを見つめていたのです…
少し小さくなった…!?─それに加えて由香が帰るといつもするという「お帰り」の挨拶もなく…朝は元気に「おはよう」と喋り、どこも変わった様子はなかったらしく、そういうこともあってか由香は怪訝そうな表情を隠せませんでした。
「きっと知らないお友だちが一杯いて、緊張しているんだよ…」─一方由香のそんな姿を見て心配したのか、それとも動揺したのか…どこか落ち着きのない様子でそう由香を励ます坂口。
そしてそんな彼の不審な態度や言動と、風邪をひいているにも関わらず部屋中の窓を全部開けっ放しにしておいたという事実から、探偵団たちは坂口に対しある重大な疑惑を抱き始め……
今回の作品は由香の飼う青い鳥に隠された秘密を、少年探偵団の三人がコナンを差し置いて独自に捜査推理していきます。
そして行き着く先に待っている、誰もが予想しなかった衝撃の結末とは…そして灰原哀が放った、衝撃の発言とは…!?
コナンだけでなく、様々な人間がいろいろな推理を披露してストーリーを盛り上げてくれる、少年少女向けとしてはかなりしっかりとした構成の本格謎解きミステリーです。
今回は物語の終盤で手巻き寿司を集まって食べるために阿笠博士の家に集まることになります。
しかしその直前、由香と彼女の母親の雅子と探偵団の三人が町で出会った際にもちらっと回想の中で登場。ところがすごい言われようで(苦笑)
何が足りなかったのかは本編を見て確かめて下さい(笑)
オウム科の鳥で、主に手のりインコとして小鳥好きに愛好されているインコ。元々はオーストラリアに生息していた鳥で日本ではペットとして有名ですが、日本国内でも飼われていたものが関東や関西地方などでは野生化し、繁殖も確認されているのだそうです。
体長は18センチ前後で、寿命は平均7~8年。大切に育てれば10年以上生きるものもあるそうです。
くちばしの上にあるろう膜の色で、オス(青色)かメス(茶色)かを見分けることができるのだとか。
坂口慎也はこの大学の工学部の研究所で薬品の研究をしている研究所員です。
エンディング後に灰原哀が阿笠博士の家で読んでいたファッション雑誌。おそらく光文社のファッション雑誌「JJ」のもじりではないかと。
今回のお話は少年探偵団がメインで活躍し、同級生の「由香の飼っているセキセイインコが一体どうなってしまったのか?」を推理する少年少女向けの本格推理ものとなっています。
殺人事件は発生しませんがそれでも謎解きの面白さはなかなかのもので、用意された手がかりをもとに自分で推理するというよりは、コナンや灰原、探偵団たちが推理していくのを楽しむという形をとっているのが特徴です。
例えば少し小さくなり、挨拶もしないインコの様子や風邪を引いているのに窓を開けっぱなしにしていたという不審な坂口の様子などの状況証拠から、彼がインコを逃がし、代わりのインコを買ってきてごまかそうとしたと灰原哀が問い詰めるシーンなどはなかなかの名推理でしたよね。
それとペットショップの店員の証言からインコは実際は逃げたのではなく死んでいたことが判明する訳ですが、そこでわざわざ代わりのインコを買ってきていることからわざと殺したのではないとも思えると推理した光彦もなかなかのものでした。
光彦に関してはその後にも揮発性の毒薬を使ったという推理の際、開けっ放しにされていた窓や坂口氏の目の充血や咳払いなどの状況証拠に基づいて論理的な推理をしようとしていますが、これがなかなか説得力もあって見事な推理でした。
最後にはコナンがろう膜の色の変化という決定的な証拠をもとに名推理を披露してくれる訳ですが、今回は灰原も光彦にも活躍の場が与えられて一緒に事件を捜査したり推理したりと、視聴者を飽きさせない展開だったのは見事な構成だったと思います。
一方でこの形のミステリというのは自分で推理する楽しみが薄くなってしまうのが難点ですが、それを意外な展開、二転三転するプロットで上手く補っています。
最初は坂口がインコを逃がして代わりのインコを買ってきたと推理したのですが、実はインコは逃げたのではなく死んでいたという事実が途中で判明し、彼が故意なのか過失なのかは分からないもののとにかくインコを死なせてしまったと推理します。
そして更に坂口が大学で薬品研究をしているという事実も判明して、どんどんと彼の疑惑が濃くなっていき、最後には紺野母子も坂口によって毒殺…!?、と探偵団の妄想がどんどん膨らんでいく…というミスリードもなかなかのものでしたし、ラストの毒殺を食い止めようと探偵団が疾走するシーンはサスペンス感もたっぷりで見ごたえもありました。
ところが真相はというと、実はインコは坂口が来た時にはもう初めから死んでいて、彼は由香の気持ちを気遣って代わりのインコを買ってきただけだったという何とも心温まる結末で、その坂口の気持ちに応えて最後に由香が子供らしく「ありがとう」と言うシーンも含めて、二段のどんでん返しが用意されている、よく考え抜かれた素晴らしい作品だったと思います。
またラストの「よかったね、家族ができて…」という由香の言葉、これは二匹になったインコだけではなく、将来的には義理の父親になるかもしれない坂口氏の温かい気持ちに素直にお礼の言葉を言うことができた自分に重なる部分もあったのでしょうね。後味の非常に良い温かい結末でした。
次にキャラクターについての考察ですが、中に泥棒がいるのではと勘違いした探偵団たちのうち、元太と光彦がランドセルに挿したたて笛を刀のように抜いて身構える姿は、たて笛では有効な武器にはならないであろうとはいえ、子供らしくて可愛げがあって良かったですね。その後ビクビクしながらも怪しい男に立ち向かっていこうとする姿も微笑ましくて好感が持てました。
この点ここの所の探偵団たちというのはそのあまりの博識ぶりや殺人現場に堂々と立ち入ろうとする大人顔負けの行動から「7歳児にはとても見えない」という批判もよく耳にします。
それについては一部では私も同感な部分もあるにはあるのですが、この冒頭の探偵団たちは子供っぽさが上手く描かれていて、小さなお子さんにも共感を持つことができたのではないかなと思っています。
それ以外にも坂口氏の毒殺疑惑を想像するシーンの紙芝居のようなものやペットショップに持ち込んだ坂口氏の似顔絵などは子供らしさが出ていてかなりいい感じでしたし、また今回登場した由香も子供っぽく描かれて、小学一年生らしい可愛らしい少女でした。
ただ中盤の探偵団たちが抜け駆けして捜査活動を行うあたりは、やっぱり7歳児に見えないという印象も個人的にありました。
坂口氏がどちらかというと気弱な性格であるとはいえ、小学1年生の推理にあんなに動揺するのはやっぱり違和感がありますよね。
それと光彦が使った「揮発性」というのは…説明は分かり易かったですが、大人でもあまり使わない言葉ですからね(苦笑)。コナンが言うのならまだ説得力がありますけどね…
今回はそれ以外では作画も文句のつけようがなく素晴らしかったですし、ストーリーも実に素晴らしく、そのため本当に迷ったのですが、この点で星を一つ減らして星4つということにしてあります。
それから探偵団たちがコナンと灰原に抜け駆けして捜査しようと二人と別れる直前、元太が「2人で寄り道するなよ」と言ったのに対し、灰原が「そうね、それもいいかも…」と冗談で言ったのを受けて思わずコナンが顔を赤くするシーンはファンにはたまらない演出だったと思います。
その直後の探偵団たちがいそいそとペットショップに向かおうとするシーンの最後で、コナンと灰原が追いかけてこないか…と3人揃って後ろを振り返って確認するシーンも合わせて、今回の一番の見どころといってもいい楽しい場面でしたね。
もう一点、阿笠博士も終盤に登場するのですが、探偵団たちから発せられたのは「『~じゃ』とか『ワシ』とかジジくさいんだよな」と衝撃的な発言ばかりでしたね(苦笑) あまりの過激発言に眉をひそめる回想中の阿笠博士もかなり可笑しかったです。
またエンディング後の博士のダジャレ連発ですが(苦笑)、「いくら待ってもアナゴは来ない。サケびたいけどそりゃなイカ。のりすぎですかって、しょうゆうこと」と私には聞き取れました。手巻き寿司に入っていた具の中味と比較してみても多分これで間違いないと思います。
それと今回の一押しキャラは上記の問題発言を含めて数々の笑いを提供してくれた元太で誰も文句のないところでしょう。今回は実にいい仕事してます。
最後にまとめさせて頂くと、今回は殺人事件も発生しなければ派手なアクションもなく、最初に見た印象では派手な感じがしない作品にも見えるかと思います。
しかしじっくり見ると実によく考え抜かれた構成で、子供向けの作品としては素晴らしい出来栄えだったと思います。
最近「コナンで扱われるのは殺人事件ばかりだ」という見当外れな批判を一部で目にすることがあるのですが、コナンではこういう殺人事件とは全く無縁でも良い出来栄えの作品も多数あるということは、もっと皆さんにも広く知ってもらいたい事実ですね。