(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 毛利蘭 毛利小五郎 目暮警部 千葉刑事 辻村 沼田刑事 井上刑事 鈴木由美(40) 新田秀子(70) 山本信男 中西三郎(30) |
本編の主人公、正体は工藤新一 本編のヒロイン、新一の幼なじみ 蘭の父親で私立探偵 警視庁捜査一課警部 捜査一課刑事、目暮の部下 監察医 捜査一課刑事、目暮の部下 捜査一課刑事、目暮の部下 歯科助手 鈴木由美の隣人 306号室の住人、事件の被害者 山本信男の幼馴染み |
高山みなみ 声の出演なし 神谷明 茶風林 千葉一伸 鈴木琢磨 浜田賢二 小上裕道 伊藤美紀 坂井寿美江 桜井敏治 岩田光央 |
その日小五郎とコナンは蘭から頼まれたおやつのケーキを買って帰る途中、近くに住む新田秀子と鈴木由美という二人の女性とばったり出会い、二人の住むマンションへと走って行くことになります。というのも彼女たちの住むそのマンションの一室で口を銃で撃ち抜かれた無残な射殺体が発見されたからでした。
遺体が発見されたのは彼女たちの住むマンション3階の一番奥の306号室で、新田秀子の部屋の二つ隣り、鈴木由美の部屋の隣りの部屋でした。そして亡くなっていたのはその部屋で独り暮らしをしている山本信男という蝶が大好きな男で、山本はリビングのソファーに座った姿勢で口の中を銃で撃ち抜かれて即死の状態で発見されたのです。
咽喉を貫通した弾丸はソファーの後ろの蝶を飼っていたガラスケースを撃ち抜き、中にいた何十匹という蝶が部屋の中に飛び出して山本の死体の周囲を飛び回るという、何とも異様な光景で遺体は発見されますが、目の前のテーブルにはワープロで書かれた遺書もあり、その文言から当初は借金の返済に困っての自殺と思われました。
ところが二人の女性から聴取した遺体発見の経緯を聞いてみるとこの事件、単なる自殺とは考えにくい状況に変わっていったのです。
遺体発見の経緯は次のとおりでした。まず新田秀子が日課の昼寝を終えて起きた頃に隣人の鈴木由美が現われ二人は秀子の部屋の前で世間話をはじめたのですが、それが大体2時45分頃のことだったといいます。
鈴木由美は近所の歯科医米花デンタルクリニックで歯科助手をしている中年の女性でした。その日はたまたま休暇を取っていたらしく、昼にはサンドイッチを自分で作って食べたらしいのですが、その後池の鯉にエサをやるのが楽しみだと新田秀子が言っていたのを思い出し、余ったパンの耳をおすそ分けするために隣りの新田秀子の部屋を訪れたというのです。
鈴木由美の好意を新田秀子はひどく嬉しがったようで、池の鯉にエサをやった後で二人は一緒にお茶を飲むことを約束し、3時に待ち合わせることでいったん別れることにします。ところがそこへ二つ隣りの山本信男の部屋の中から問題の銃声が聞こえてきて二人はハッとしたというのです。
もっともその時は、まさかこんな昼日中から銃の音など聞こえるはずがないと二人は思ったらしく…そのまま別れ予定どおり3時過ぎに鈴木由美の部屋の前で再会したのです。
ところがまさにその時でした。つい15分前に銃声のような音がした山本信男の部屋の中から一人の男が現われて、逃げるようにしながら慌ててその場を立ち去っていったのです。
そしてその際に男が部屋のドアを閉め忘れていったため、秀子が代わりにドアを閉めようと山本の部屋に近づき、部屋の主の無残な姿を発見。警察に通報しようと慌てて外に飛び出し、そこで小五郎たちと出会ったという訳だったのでした。
山本信男の部屋から出てきた男というのは名前を中西三郎といい、山本信男の幼馴染みで以前鈴木由美の部屋に住んでいた人物でした。
確かにそのような親しい間柄であれば中西が山本の部屋にいたこと自体は別に不自然なことではありませんでしたが、仮に山本が自殺していたとして、中西がそれを警察なり病院になり通報もせずに現場を立ち去ろうとしたのは、どう考えても不可解な状況といわざるを得なかったのです。
そのような不可解な中西の行動から、小五郎はよくある借金のもつれから山本は中西によって殺害されたと推理。すぐに警察が呼ばれて本格的な捜査が開始されることになります。
すると被害者の山本には改造拳銃の不法所持での逮捕歴があり、またTVの音がうるさいと注意すると逆ギレするなど近所の評判も芳しくなく、とても自殺をするような神経の持ち主ではないことも明らかになり、ますます他殺説に拍車がかかります。
ところが…そこへ小五郎の他殺説を真っ向から覆すような新たな事実が、検死の結果によってもたらされたのです。何と亡くなった山本信男には抵抗した痕跡がまったくなかったのでした。
もし他殺と考え山本は口の中に銃口を押しつけられて射殺されたとすると、歯や唇、口の中などに擦り傷がわずかにでも残るはずでしたが、それらがまったく見られず口の中はきれいなままだったのです。だとすると被害者は射殺されるために自らの意志で口を大きく開けたということになり…
他殺だとすると犯人はいったいどんな方法を使って山本を殺害したのか、警察の関心はそこに集まる中、問題の中西三郎が警察に呼び出されて事情聴取が開始されたのですが、予想どおり彼は真っ向から山本殺害を否定して……
蘭から頼まれたおやつのケーキを買いに出かけた小五郎とコナンはその途中に二人の女性と出会い、マンションの一室での変死事件の調査を依頼されます。
その部屋では飼われていたオレンジ色の蝶に囲まれるように銃で口の中を撃ち抜かれた男の死体が発見され、当初は自殺と目されるも、事件当時部屋から出てきた怪しい男の目撃情報から他殺説が俄然有力になります。
ところが検死の結果被害者の口の中には抵抗の跡が見られず、再び自殺説も有力に…他殺だとすると犯人はどんな方法で被害者を殺害したのでしょうか?
略称BDC。今回の事件の目撃者の一人である鈴木由美が歯科助手をしている歯科医です。
容疑者の中西三郎は被害者山本のアパートのやって来る際、タクシーに乗ってきたと主張しています。
ただどんなタクシーだったかははっきり覚えていないらしく、そこで警察は様々なタクシー会社に聞き込みを開始したのですが、その際に登場したのが米花タクシーでした。
ちなみに刑事のメモには他に東京都タクシー、西ニッポンタクシー、とうきょうタクシー、港北タクシー、米花無線、帝国交通、新宿無線、大正タクシーなどの名前がありました。
事件の被害者山本信男がガラスケースで大事に飼っていた蝶の名前。漢字では姫赤立羽と書きます。
オレンジ色を基調とし、黒い斑点のある羽根をしていて、南極大陸を除く全世界に分布している最も分布の広い蝶の一つなのだそうです。
詳しくはフリー百科事典ウィキペディアのこちらのページを参照下さい。
結論から申し上げますと今回の事件は本当に面白かったですね。今年放映された作品の中でも現在の所でもベストに近い作品です。
最初は遺書もあって自殺かと思いきや、目撃者の二人の女性の証言から中西という男の存在が明らかになり他殺説に大きく傾く。ところが警察が捜査を開始し検死をしてみると被害者の口の中はきれいで、抵抗の跡が見られず再び自殺説も有力になります。
そこで他殺説だと殺害方法が焦点になる訳ですが、それを蘭がおやつに小五郎に使いを頼んだケーキを登場させてヒントを与え、更には医者という職業の特性も活かして口を開かせたということで論理的に説明しています。このあたりの論理構成が実に見事です。
ただこの点自殺する場合には通常は銃口をぴったり口につけるので小五郎の同窓会の事件の時のようにヤケドの跡が問題になるため、自殺だと思わせようとするとヤケドの跡が、他殺だということになると抵抗の跡がなくてはおかしいことになってトリック自体無理が出てくるような気も一方でします。
まあこの点を文句を言い出すとこの作品はどうかということになってしまうのですが、実際タイトルも「アーン」になっているとおり殺害方法を匂わせるヒントは結構あって今回の一番の焦点ではないことはすぐに分かるかと思います。もちろん犯人も今回は簡単に想像がつくかと思いますが、これも一番の焦点ではありません。
そのため一見すると何だかとても簡単な謎解きに思えるというより、謎解きになっていないのではと思える作品なのですが、そこで最後の最後に用意されているのがこの作品の一番の焦点である犯人を逮捕するための決定的な証拠というものでした。
そしてこれがまた歯医者の職業柄所持する器具がスプーンに似ているという点と被害者の無神経な性格を利用した実に見事なもので、まさかあんな所に決定的な証拠が用意されていたとは想像もしていませんでした。
あれだけ何度もマドラーが入れられたカップが視聴者の目の前に呈示されていたのに…と思うと、今回は見事に一本取られた感じで完全に脱帽でしたね。こういう驚きを味わうためにミステリを読んだり観たりしている訳ですから、それを充分の堪能させてくれた今回の作品には個人的には文句のつけようがないです。
そういえばなぜか皆さんの評価があまり芳しくありませんが(苦笑)、それは犯人や殺害方法が見え見えだったからなのかなと個人的には思っています。
ただそれらがこの作品の最大の焦点ではないということが理解できれば、この作品はきちんと本格ミステリしている作品で、ヤケドの点が問題になる点を差し引いても分かる方には分かる傑作だと理解できると思います。
それからもう一つ上手いなと思ったのが蘭がおやつに頼んだケーキの行方です。まずこのお使いによって事件と遭遇することになり、このケーキを途中で食べることによってコナンが殺害方法について気づき、さらにこのケーキを食べてしまったことによって、最後に小五郎とコナンはとんでもない目に遭うというオチにもなっています。
このあたりの事件との絡ませ方、オチのつけ方が今回は抜群にはまっていましたね。このシーン小五郎のセリフもあって本当に大受けでしたよ(笑)
また蘭が最後に姿も声も見せなかったことが、よりいっそう蘭が怒っているのだろうなという想像力をかき立てられて何ともいえない効果を生み出していました。この脚本家の方の作品って最近なぜかコナンと小五郎が出て蘭を登場させないというパターンが多くて内心はあまり歓迎できない心情ではあるのですが、今回はそれを逆手に取った上手いやり方でした。まさに蘭はコロンボのカミさんのような役割でしたね(笑)
そして小五郎ファンの私にとってはやはりあれだけ小五郎が馬鹿騒ぎしてくれると、それだけでもう楽しい気分になりますね。改めて小五郎あっての名探偵コナンだとつくづく思わせられるような今回の作品だったと思います。