(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 高木刑事 吉田歩美 小嶋元太 円谷光彦 真中大二郎(27) 銀林大蔵 日沼一夫 大家 借金とりA 借金とりB |
本編の主人公、正体は工藤新一 巡査部長、目暮の部下 帝丹小学校に通うコナンのクラスメート 帝丹小学校に通うコナンのクラスメート 帝丹小学校に通うコナンのクラスメート 画家 銀林総業社長、真中のおじ 銀林の秘書 真中の住むアパートの大家 ヤクザな男 ヤクザな男 |
高山みなみ 高木渉 岩居由希子 高木渉 大谷育江 陶山章央 飯塚昭三 幸野善之 堀越真己 天田益男 三戸耕三 |
うな重すげぇー…米花駅前にあることぶき屋という料理屋の店先でヨダレを垂らしながら恍惚の表情で特盛のうな重を眺めていた小嶋元太少年。歩美たちの早く行こうという言葉にも耳を貸さず、少年はすっかり自分の世界に入り浸っていました。
ところがそこへ突然後方からガシャンという大きな金属音がして、元太少年は現実の世界に呼び戻されてしまいます。そして驚いた元太少年が後ろを振り返ってみると、クレーンで空高く吊られていた鉄骨が外れ、最悪なことに建築中のビルの前を通っていた一人の若い男の頭上めがけて落下してきたのです。
幸い間一髪の所で男は難を逃ることができましたが、避けた拍子に地面で頭でも打ったのか意識を失っていました。そこで現場に駆けつけた探偵団の通報で、すぐに救急車に乗せられて近くの病院に運ばれたのですが…
病院に運ばれた男は、転んで片足を骨折してはいるものの頭や脳波には異常はなく、また鉄骨の落下についても高木刑事らの現場検証で、単純なクレーンの操作ミスで事件性のない単なる事故だったことが分かり、今回の騒動はそれで落着したかに思えました。
ところが今回の鉄骨の落下事故がきっかけとなり、コナンたちは偶然にも一つの悪しき企みが計画され、実行に移されていたことを後になって知ることになったのです。
男が病院に運ばれてからしばらくが経ちますが、男の意識はなかなか回復しませんでした。そこで身元確認のため、高木刑事は男の持っていたボストンバッグの中身を調べることになります。
するとバッグの中からは、ロープに軍手、財布、そして一通の封筒といった品物が出てきて、財布に入っていた免許証から男の名前が真中大二郎ということも判明したのでした。さらに封筒に入れられていた紙きれも開いてみたのですが…そこには何とも驚くべき内容の文章がしたためられていたのです。
「生きていくことに疲れたよ、もう」…封筒の中身は何と遺書だったのです。まだ27歳という若さにもかかわらず自ら命を絶とうとする内容の文章に、高木刑事もコナンもため息が止まらなかったのです…。
ほどなくして真中が目を覚まし、高木刑事はバッグに入っていたロープに軍手、遺書の入った封筒を彼に見せて事情を説明するように促します。ところが高木刑事に真中と呼ばれても、それが自分の名前だとは分からないらしく……それどころか何も思い出せずに、結局最後には両手で頭を抱えて苦しみ出してしまったのでした…。
どうやら真中は記憶喪失の状態に陥ってしまっているようでした。そんな真中に高木刑事や探偵団たちも同情、通常なら早く記憶を取り戻させたい所でしたが、しかし今回の場合は下手に記憶を取り戻してしまうと、また自殺しようとするかもしれないという恐れもあり…下手なこともできないジレンマに一同は陥っていたのです。
そのように何とも不安定な状況が続く中、高木刑事は真中がいつ記憶を取り戻してもいいように昼夜監視することを決意し、一方探偵団たちの方はというと、自殺しようとするには何かしらの”問題”を抱えているはずだと考え、真中の抱えているその”問題”を解決してあげようと独自に捜査を開始、まずは真中大二郎の住むアパートを訪問してみることにしたのです。
するとアパートの大家の話から、真中は全然有名ではないものの絵描きのまねごとをしており、そのために金にも困っていて何と200万円もの借金を抱えていることが判明。そしてヤクザ風の借金取りにも追われているということが分かったのです。
その一方で親類はというと、米花南町に大きな屋敷を構える大金持ちの銀林大蔵という名前のおじが一人だけいるにはいるのですが、その銀林という男、真中が何度頼みに行っても1円も貸してくれないらしく…
一方でコナンはというと、真中の所持していたボストンバッグの中身や彼の高木刑事と話をしている際の動作に何かしっくり来ないものを感じていたのですが、更にアパートの大家の話を聞いたコナンは、そこである一つの確信を得たのです。その確信というのは何と……
米花町でうな重を羨ましそうに眺めていた元太たちのもとに突然訪れた鉄骨の落下事故。被害者の男性は直撃こそ免れたものの足を骨折し病院に運ばれます。
幸い落下事故には事件性はなかったものの、被害者の身元を確認しようと彼のバッグを調べてみると、ロープに軍手、封筒といったものが中からでてきて、封筒の中には遺書らしきものが入っていてコナンたちは驚きます。
ところが被害者が意識を取り戻してみると、自分の名前すら思い出せず、彼は記憶喪失になってしまっているようでした。
記憶を取り戻してもまた自殺しかねないジレンマに陥った探偵団たちは、根本的な解決には、自殺の原因となっている彼の問題を解決することが一番と考え、彼のアパートを皮切りに情報を集めることになるのですが、聞き込みをしていくうちにそこにはとんでもない事情があることが分かってきて…
作品の冒頭で元太がうな重を羨ましそうに眺めていた料理屋の名前。チェーン店のようで”米花駅前店”と表記がありました。
医療法人。鉄骨に襲われた真中大二郎が搬送された病院の名前。
今回の鉄骨に阻まれた男、バッグに入っていた免許証から住所や生年月日まではっきり分かっています。
氏名は真中大二郎、昭和53年8月28日生まれ、本籍地は東京都杯戸市杯戸町6丁目5番地、そして住所は東京都米花市米花町4丁目20-15でした。
それにしても杯戸町って杯戸市にあったのですね。てっきり米花市内にあるのかと思っていました。
今回の作品は殺人を未然に防ぐという、何とも珍しい展開でした。そのせいもあってか謎解きは前半でほとんど終わってしまい、後半はお涙頂戴のストーリーが延延と続く内容になってしまっています。
そのためミステリとしては見るべきものはほとんどなく、後半の話にに感動された方には良い話で終わったことでしょうけれども、逆に感じた方にとっては何とも締まりのない噴飯ものの話ということで終わってしまったことかと思います。
まず単に殺人を未然に防ごうとするのではなく、それを鉄骨の落下事故での記憶喪失という事態と上手く絡めて、人を殺そうとしていたことがばれないように記憶喪失を装い続ける真中と、それを自殺しようと考えていたと誤解して彼を助けようとする高木刑事、更に男が人を殺そうとしていたことを知りつつも、その境遇に同情して何とか彼が過ちを犯さないように助けようとするコナンという三者のやり取りが奇妙な緊張感を生み出していた点、そこはとても良かったと思います。
ただ今回の一件、やはり個人的にはどうも納得行かないことだらけでした。つまり私は前述の話では後者だったということですが、率直に言ってコナンや高木刑事のしていること、少しお節介というか余計なお世話という感じが否めません。
またしても以下厳しく批評しておりますので、納得できる方のみ承知の上で先にお進み下さい。不快になられても責任持てません。
そもそも200万円もの借金を作ること自体に真中という男には大いに問題がある訳ですし、おじが大金持ちだからといって借金しても金の工面を頼めばいいやというのはそれ自体甘えているとしか思えません。あげくの果てにおじを殺してしまえ…というのはどう考えてもまともな大人の考えることではないです。
またそれに対して実はおじが影で援助しているというのも…正直甘やかし過ぎではないでしょうか。
世の中には夢を叶えたくてもお金の問題で諦めざるを得ない人もいっぱいいるでしょうし、生活のために働かなくてはいけない、そのために自分の時間が取れないで苦労しているという人もいっぱいいます。
そういう人間からしてみると、好きに絵だけ描いていて金に困ったら大金持ちのおじが援助してくれるからいいや…というそのような甘い考えは到底納得のできることではないと思いますし、そういう甘えた考えではまともな画家になどなれない気が私にはします。何よりも夢を諦めて現実的に生きる人間を「俗物」と言うこの真中という男がどうしても許せないですね(苦笑)
またおじが厳しい態度で金を貸さないと言っていることに、コナンたち他人が横からどうこう言うのはおかしいです。”法は家庭に入らず”という格言もありますしね。まだ犯罪が起きていない訳ですから、銀林と真中の二人で話し合えばいいことで、それでもうどうしても金を貸せないとなればなったでそれは仕方ないことではないでしょうか。
真中は27歳で子供じゃないんですから、自分で借りた金は自分で返すのが当たり前、自分の汚した尻ぐらい自分で拭くのが大人として当然の在り方です。
それにしても金を貸さないことを逆恨みして人殺しをしようとしている人間に、人殺しをして欲しくないから金を援助してやってくれ…というのは、何か変な理由付けですよね(苦笑) 本来なら馬鹿な真似はやめてまじめに働いて金を返せというべきなのに、金はやるから人を殺すのはやめてくれと言っている訳ですから、今回の話がどうしても納得できないのはある意味仕方のない所かもしれません。
金でしか事件を解決できないと考えたコナンの推理にも到底納得できないものがありました。金を出す以外にもっとまともな解決方法はなかったのでしょうか?
確かに事件を未然に防ぐ(ただし厳密にいうと今回の事件は凶器も準備していて殺人予備罪にあたらなくもないため、犯罪がまったく起こっていないとは本当はいえないですが)というのは素晴らしい事だと思いますし、そういう話がコナンであってもいいとは思います。
しかし結局金を持っている奴が勝ち、あるいは金のない奴は画家になんかなれない、あるいは金を援助すればいい人間で援助しなければ悪い人間、あるいは金ですべてが解決できるとでも言いたげな今回の話は、一昔前のとあるIT長者の発言のようで何か庶民を馬鹿にしているようにしか見えませんでした。
もう少し庶民感覚を持ったストーリーを作らないと、大衆から愛される国民的ヒーローのコナンからは程遠くなってしまうのではないでしょうか。今回の話、残念ながら過去442話の中でもっとも最低かつきわめて不愉快な話となってしまいました。