(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 毛利小五郎 目暮警部 千葉刑事 沖野ヨーコ 上島長郎(50) 満楽亭市松(55) 目黒美弥(30) 満楽亭喜三郎(30) 良太 |
本編の主人公、正体は工藤新一 蘭の父親で私立探偵 警視庁捜査一課警部 捜査一課刑事、目暮の部下 人気アイドル 防犯グッズ店主、小五郎の世話役 落語家、上島の幼馴染み 定食屋〈目黒食堂〉店主 落語家、市松の弟子で美弥の元亭主 市松師匠に弟子入り志願した青年 |
高山みなみ 神谷明 茶風林 千葉一伸 声の出演なし 有本欽隆 小川真司 岡本麻弥 難波圭一 白石稔 |
寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ。海砂利水魚の、水行末、雲来末、風来末。食う寝る処に……8月12日土曜日のこと、小五郎はコナンと目暮を伴い、落語の古典として有名な「寿限無」を暗誦しながら米花町を歩いていました。
しかし人間には得手不得手があるもの、どうやら小五郎に暗記という才能は皆無だったらしく…コナンや目暮の助け舟にも関わらず間違ってばかりで、1週間が経ってもまったく諳んじることはできなかったのです。
そんな苦手な暗記に挑戦してまで落語の話を覚えようと小五郎が考えたのは、その日午後3時より米花町地域センターで開催される”第3回素人演芸大会”に出演するためで、その優勝商品というのが他でもない居酒屋・米花での飲み放題だったからなのです。
小五郎らしいといえばそうですが、あまりの覚えの悪さに目暮は恥をかくだけだと出場を思い止まらせようとします。
しかし地域センターへ向かう途中に訪れた、小五郎の世話役を務める防犯グッズ店の店主上島長郎は、あの名探偵が落語をやるということで大変な評判になっている、是非頑張って欲しいと小五郎を励まし…
結局目暮は今更出場を断念させることはできないと考え、もしもの時のためにすぐにでも覚えられる小噺を教えてやり、あとは神のみぞ知るということで午後3時の本番を迎えることになったのです…。
小五郎たちは世話役の上島と合流すると、早速地域センターへ向かおうとしますが、その途中、今度は目黒食堂という定食屋の前で一人の初老の男性と出くわします。
その男性というのは落語家の満楽亭市松で、実は今回の演芸大会にゲストとして招待されている人物でもありました。そして偶然にも市松師匠と小五郎の世話役の上島は幼馴染みらしく、その縁もあってか小五郎たちは上島と一緒にその目黒食堂でお茶を飲んでいくことになったのです。
その市松師匠、何でもその目黒食堂で定食屋の手伝いをしているというのですが、落語家が定食屋の手伝いをしているというのも妙な話。そこで目暮も不思議がりますが、上島の話によると市松師匠はその食堂の女主人の目黒美弥の面倒を事ある毎に見てやり、また金銭的な援助もしているらしく、将来的には独身生活に終止符を打つのではと教えてくれたのです。
もっともこの目黒食堂の女主人の美弥と市松師匠の関係というのも、実に奇妙なものだったのです。
なぜなら美弥の別れた亭主というのが、名前を満楽亭喜三郎といい、市松師匠の落語の弟子なのですが、喜三郎は1年前に市松から破門されていたからでした。自分の亭主を破門した師匠と親しくするのはおかしい…市松が騙されていなければいいがと、上島は幼馴染みを心配するのでしたが……
それから上島と小五郎たちは打ち上げを夜7時に喫茶メルヘンでやることを確認すると市松師匠と別れ、ようやく地域センターへと到着。大勢の観客が見守る中、ついに小五郎がこれまでの練習の成果を披露する時がやってきます。が、しかし…
向こうの空地に塀ができたってねぇ……小五郎の出番が終わると、入れ替わりで市松師匠が楽屋を出て、本日のメインイベントがスタート。ほどなく市松師匠の十八番の出し物「目黒の秋刀魚」は大好評のうちに終了し、素人演芸大会も無事に幕を閉じることになります。
演芸大会が終わると、あとはメルヘンでの打ち上げを残すのみとなり、小五郎はとことん飲みまくろうと張り切ります。
しかしまだ時間が少しあったためか、市松は人が訪ねてくるかもしれないからと、小五郎たちに先に行っているように言い残し楽屋に戻り、一方小五郎の世話役の上島も残務整理があるからと一人事務室に向かい、結局小五郎と目暮、それにコナンの三人は、二人の用事が片付くまで地域センターの前で待つことになったのです。
やがて観客たちが皆会場を後にし、日もとっぷりと暮れた頃─上島は残務整理を終えて小五郎たちの前に姿を現わしますが、市松師匠はまだ待ち人が来ないらしく、仕方なく上島と小五郎たちは先にメルヘンに行って打ち上げを始めることになります。
ところが…小五郎たちがメルヘンに着いてほどなく目暮の携帯が鳴り、とんでもない事態が発生したことを告げたのです。何と地域センターの楽屋で一人で人を待っていた市松師匠が何者かに刺され、意識不明の重体だというのです…!!
急いで小五郎が目暮たちとともに地域センターに戻ってみると、市松師匠はすでに救急車で運ばれた後で、現場となった楽屋の床にはおびただしい出血の痕が残されていました。そして目についたのは、楽屋にあったホワイトボード。これが床の上に倒れていたのですが、そこには何とも奇妙な文字が描かれたいたのです。
メグロノ…!?
ホワイトボードにはそう書かれていて、どうやら市松師匠が何かを伝えるために書き残したもののように思えたのですが、それが一体何を意味しているのか目暮警部には分からなかったようでした。
ところが現場に残されていたという包丁を見た小五郎には珍しく犯人が誰か分かったらしく、得意気に犯人を名指ししようとします。
と、そこへ突然の乱入者が現れて小五郎の推理ショーはいったんお預けになります。廊下に群がる野次馬たちの列をかき分けて楽屋に入ってきたのは、目黒食堂の女主人の目黒美弥でした。そして何と彼女は自分が市松師匠を刺したのだと、自らの罪を警察の前で自白したのです…!
ところがそこにもう一人の乱入者が現れたのです。美弥の後を追うようにして楽屋に入ってきたのは、何と1年前に市松師匠に破門されたあの満楽亭喜三郎。そして何と彼も自分が市松師匠を刺したのだと、自らの罪を警察の前で自白したのです…!! 一体これは…!?
居酒屋で飲み放題の優勝賞品目当てに素人演芸大会で落語を披露することになった小五郎。しかし暗記の才能がないのか、なかなか覚えられないまま本番を迎えてしまい…
演芸大会が終わると、小五郎はゲストとして大会に出席した落語家の満楽亭市松らと一緒に打ち上げに参加することになります。
ところが人と会う約束があると言い残して小五郎と別れた市松は、楽屋で何者かに刺されて病院に運ばれますが意識不明の重体。そして現場にはおびただしい血痕と、ホワイトボードに「メグロノ…」と書かれた奇妙な文字が残されていて…
作品冒頭で小五郎、コナンと目暮が歩きながら小五郎の落語の暗記を手伝っていた際に出てきた文具店の名前。
今回の米花町商店街主催の第3回素人演芸大会の優勝者に贈られるのがこの居酒屋・米花での飲み放題でした。
そこで小五郎は無理を承知で落語を覚えることになったのですが、さて結果はどうだったのでしょうか(笑)、それは見てのお楽しみです。
これは毛利探偵事務所の住所です。
落語の言葉遊びの一つとして古典的に有名な話の一つで、大会に出席するために小五郎がコナンと目暮と歩きながら練習していた話です。
長屋の男が生まれた自分の赤ちゃんに男らしくて長命な名前を付けてもらおうと、寺の住職に頼んだ所、最初住職は寿に限りがない、つまり長生きするという意味から「寿限無」はどうだと提案。
しかし男が他に名前はないかと言ってきたため、そこで住職は限りなく長命な名前をということで思いつく名前にと挙げ、それがそのまま名前になってしまったという感じの話。オチももちろんついているのですが、ここで書いてはネタバレになってしまうので、ご自身で実際にお確かめ下さい。
なお口頭で伝承される話芸ということで、話し手によって若干の違いや表記の違いもあるのだとか。ここでは最も代表的な例を挙げておきますが
寿限無、寿限無(じゅげむ) 五劫(ごこう)の擦り切れ
海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)の
水行末 雲来末 風来末(すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ)
食う寝る処(ところ)に住む処 やぶら小路の藪柑子(やぶこうじ)
パイポパイポ パイポのシューリンガン
シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの
長久命の長助(ちょうきゅうめいのちょうすけ)
なおこの話について更に詳しく知りたい方はフリー百科事典ウィキペディアのこちらのページを参照下さい。
「寿限無」と同様に古典落語の一つとして有名な話。
内容については作中で語られたとおりで改めて説明する必要はないのですが、詳しく知りたいという方は再びフリー百科事典ウィキペディアのこちらのページを参照下さい。
なお今回の話は以上の「寿限無」と「目黒の秋刀魚」の話を知っているかいないかで楽しめるかどうかも違ってくると思われますので、作品を見る前に勉強しておいた方がいいのかなと思います。
今回の作品は落語をテーマにした作品ということで、コナンでは初めての試みでしたが、作品の冒頭を見ているとコナンと小五郎が出て蘭が出てないパターンなので、またあの脚本家の作品か…とすぐに分かりました(苦笑)
しかもいきなり目暮警部の、あの着色を担当した人間は色覚異常としか思えないような、絵具の筆を何度も洗った後の水入れのような汚らしいスーツの色を見てすっかり気持ちが萎えたのですが(苦笑)、最後まで見てみるとこれが意外なほどよく出来たミステリーで、すっかり感心してしまいましたね。
とにかく今回ほど30分作品できちんとした本格ミステリーだった回というのは、コナンの30分単発作品ではおそらくなかったと思います。それぐらいにプロットがしっかりしている上に伏線がきちんと張られていました。
今回も皆さんの評価を見ているとなぜか異常に評価が低いのが不思議で仕方ないのですが、それはおそらくダイイングメッセージだけに目がいったからではないのでしょうか。
確かに「メグロノ」が「ナガロー」になっただけではミステリとしては何とも不十分な気もしないでもありませんが、ここに至るまでにしても目黒食堂で指を怪我して左手でしか字が書けないと匂わす伏線をきちんと張り、更に目黒食堂を去る際に7時にメルヘンで打ち上げをやるということを上島と確認させて市松師匠がメモを取ったであろうと想像できるシーンを用意し、コナンが現場に残されていた手帳の文字を見て左手で書いたことに気づくまで、流れるように繋がりを持たせています。
このダイイングメッセージだけでも30分作品なら十分合格点なのですが、更にこの作品は女主人とその元亭主で市松師匠の弟子の喜三郎がお互いに相手の犯行だと勘違いし、お互いを庇い合うという状況を作り出し、更に事件を複雑に見せています。
そして相手が犯人だと思った理由というのも実に巧妙に設定されていて、特に美弥が喜三郎を犯人だと思った理由の方が、タイトルの目黒の秋刀魚とかけ、さらに秋刀魚が「秋の刀の魚」と書くほど刀に似ているために包丁に見間違えたという所が、この作品の中で一番感心しました。
そしてダイイングメッセージだけでなく、今回はきちんと犯人である決定的な証拠というものも用意されています。それが市松師匠に弟子入りを志願した少年の仕掛けた録音機で、これも少年の心理を上手く利用したものである上に、冒頭の定食屋で市松師匠と話すシーンがきちんと意味を持っていました。更に事件直前に楽屋を窺う少年のシーンも用意されていますから、ヒントはきちんと呈示されているといっていいかと思います。
それから犯人が防犯グッズを利用してアリバイ工作をした点もほとんど違和感ありませんし、それに対する伏線も小五郎が目暮とコナンと「寿限無」を暗誦しているシーンにさりげなく滑り込ませており、今回は話全体にほとんど無駄な点がありませんでした。
確かにツッコミを入れられてもおかしくない部分もまったくないわけではありません。一番はやはり犯人が美弥に好意を寄せているのに目黒食堂の包丁を使って犯行に及んだという美弥に疑いがかかるような行動を取った点ですが、これは犯人が自分の保身ばかり考えてそこまで気がまわらなかったのか、それとも単にアホだったとしかいいようがありません(苦笑) まあしかし犯人というのは得てしてミスを犯すものであり完璧ではないので(だからこそ探偵は犯行を暴ける)、こういう勘違いが必ずしも現実的にあり得ないとは言えないと思います。
しかしこれだけ手掛かりがきちんと呈示され、伏線も一つ一つ丁寧かつ巧妙に張られ、プロットもしっかりしている好作品なのに、評価が芳しくなく楽しめなかった方が多かったというのは…今更ながらちょっと考えされられましたね。この脚本家の前回の作品の「最期のアーン」もそうでしたが、お子さんの視聴者の多いコナンではあまり難しい本格作品は理解できないのかもしれません。
やはりアクションが多い、サスペンス感たっぷりでハラハラドキドキする、あるいはラブコメやお涙頂戴の人情話の方が大衆受けするということなのでしょうか。何かそれもミステリファンとしては少し悲しい気がします。
しかし今はクールビズが主流の時代であり、それなら白い半袖のシャツを着せて、その上でオレンジの帽子でも全然おかしくないし、あんな暑苦しく、汚らしい色のスーツと帽子を着せるぐらいなら、その方がよっぽど清潔でいいと思うのは私だけだろうか?
現に確か102-103「時代劇俳優殺人事件」などでは警部は白シャツにこげ茶のズボン、それにオレンジの帽子という出で立ちだったはず。 とにかくあの汚らしい色のスーツはもう着せないで欲しいし、目暮ファンや茶風林さんや何より青山先生に失礼ではないかと思うのも私だけだろうか?
さて話を元に戻して今回の話、本格ミステリとしてもかなり楽しめましたからそれだけで満足なのですが、個人的には久しぶりに目黒美弥役で岡本麻弥さんが出演されていたのが一番印象的でした(ちなみにコナンは18「6月の花嫁殺人事件」と映画第2弾「14番目の標的」以来のはず)。
Zガンダムのエマ・シーン役以来結構親しんできた声優さんの一人ですし、学生の頃にこの方と工藤新一役の山口勝平氏がやっていたラジオ番組をよく聴いていた思い出があるんですよね。そういえばまだTWO-MIX結成前の高山みなみさんがゲストで出て自分で作られた楽曲を披露してそれがとてもお上手だったのもよく覚えています(ちなみにここだけの話、実はこの番組で自分の出したハガキを山口勝平氏に読んでもらったこともありました)
今となってはかなり懐かしい思い出ではありますが、それから山口氏の方はコナンでもずっと新一でお馴染みでしたので何度となく声は聴いている訳ですが、彼女の方はアメリカに行かれていたと聞いていましたので、またこうやって出演作を拝見できたのは嬉しいことです。