(青山剛昌原作・小学館・週刊少年サンデー)
江戸川コナン 毛利小五郎 目暮警部 高木刑事 奥村刑事 中川刑事 杉田刑事 井上弘子(38) 高岡明(35) 木塚修(35) |
本編の主人公、正体は工藤新一 蘭の父親で私立探偵 警視庁捜査一課警部 巡査部長、目暮の部下 捜査一課刑事 捜査一課刑事 捜査一課刑事 バー「ヒマワリ」経営者、小五郎の知人 自主製作映画監督 シナリオライター志望、高岡のアルバイト仲間 |
高山みなみ 神谷明 茶風林 高木渉 成田剣 菅原淳一 小上裕通 川浪葉子 中尾隆聖 亀山助清 |
あの井上弘子さんが…その日都内のとあるマンションの一室には、警視庁捜査一課の目暮警部の指揮の下、殺人事件の現場ではいつも見られるような当たり前の光景が繰り広げられていました。
マンションの入口には警察のパトカーが赤々とサイレンを灯し、通りの往来を制限する制服警官たちの周囲を野次馬が取り囲み、一方犯行現場では鑑識が黙々と現場検証に勤しむ中、スーツ姿の刑事が上司に聞き込みの結果を報告する姿も見られたのです。そして間もなく現場には小五郎がコナンを連れて現われ─。
しかし今回の事件、小五郎にとってはただの事件ではなく何ともやりきれないものだったのです。なぜなら今回の被害者の女性、井上弘子は顔見知りの間柄だったからでした。
─これから人並みに幸せになってもらおうと、その矢先にこんなことになるなんて…
小五郎が現場に到着すると、彼女の亡骸は既に顔に白い布を被せられた状態でベッドの上に横たえられていました。そしてその前には一人の男性が床に正座をした状態で涙を必死に堪えていたのです。
一方コナンは事件現場となったリビングをつぶさに観察。すると現場は一目見てひどく荒されていることが分かるようなひどい有様でした。
玄関には弘子のものと思われる靴が無造作に脱ぎ捨てられ、リビングのカーテンは所々引きはがされた跡があり、壁に飾られたヒマワリの絵は無事だったもののヒマワリを活けた鉢は倒されて床の上に転がり、窓の前あたりではひっくり返った椅子の脚にコードが絡み、そのコードはコンセントの差込口から引き抜かれていたのです。
そしてリビングの真ん中には弘子が倒れていた跡に人型に貼られた白いテープと、その首の辺りには凶器と思われる縄ひもが置かれて…小五郎の悲しみをより一層強いものにしていたのです。
─照りつける太陽に向かって胸を張って立っている姿…それを見ると勇気が湧いてきて、頑張れる…
そんな理由から弘子はヒマワリの花が大好きだったらしく、それにちなんで〈ヒマワリ〉と名付けたバーも経営、小五郎もそこによく顔を出していたというのでした。そして小五郎は昨日も彼女のバーに飲みに行ったらしいのですが、その時弘子はようやく幸せが来たと、とても喜びに満ちた表情でいたというのです。
実は弘子には小五郎が現場に到着した際に彼女の遺体を前に涙を堪えていた男性─高岡明という恋人がいて、彼は長年自主製作の映画の監督をしてきていたのですが、最近になって彼のシナリオで大手の映画会社で一本映画を作ることが決まったらしく、いつかはこんな日が来ると彼の才能を信じて生活を支えてきた弘子にとっては、長年の苦労が報われる、自分のことのように嬉しい出来事だったのです。その事を知っているだけに小五郎も悔しさを堪え切れないらしく……
その一方で警察による捜査は着々と進められ、今回の事件は次のような時系列をたどっていったことが分かったのです。
まず斜向かいのタバコ屋の老婆の証言により4時半頃に米花電機の店員が配達に来た以外、死亡推定時刻であるその日の昼11時から13時の前後、マンションを出入りする人物はいなかったことが判明します。
次に遺体を発見し警察に通報したのは高岡明のアルバイト仲間でシナリオライター志望の木塚修であり、彼は高岡から物語のアイデアを借りたいからと頼まれ5時に部屋で高岡と待ち合わせの約束をし、そして時間どおりに来てチャイムを鳴らすと誰も出なかったのですが、ドアに鍵がかかっていなかったため中に入ってみた所、弘子がリビングの床の上で首に縄を巻き付けられた状態で倒れている現場に出くわしたというのです。
その後木塚の110番通報を受けて目暮たちが現場に到着したのが5時20分で、その少し前には高岡が部屋に到着。彼は前日の夕方から彼の故郷で映画のテーマにもなる福島県の白砂海岸に下見のため出かけており、木塚との約束の5時に弘子の部屋に戻る予定が途中交通渋滞に巻き込まれたらしく15分ほど遅れて着いたというのです。
一方木塚の方はというと大型電機店で配送のアルバイトをしており、その日も11時から1時の間は倉庫で品出しの作業中であったことが警察に確認されたというのでしたが……
小五郎も常連だった〈ヒマワリ〉というバーを経営する井上弘子という女性が何者かに首を絞められて殺害された…自主製作映画の監督をしてきた恋人が大手映画会社で映画を製作することが決まり、長年の苦労が報われた矢先の悲劇だっただけに、小五郎も悔しさを堪え切れない様子。
警察の捜査により事件のあらましが掴めてきますが、ところが事件関係者には皆アリバイがあることが分かり…
今回の事件の被害者の井上弘子が経営していたバーの名前。
「照りつける太陽に向かって胸を張って立っている姿、それを見ると勇気が湧いてきて、頑張れる」という理由から弘子はヒマワリが大好きで、それにちなんで自らが経営するバーにもこの名前がつけられました。
小五郎も常連客だったため、今回の事件にはかなりショックを受けたようでしたね。
福島県にあるという海岸で、弘子の恋人の高岡明の出身地でもあります。警察の管轄は福島県警白砂署だそうです。
高岡は自主製作の映画を撮影する監督でしたが、この海岸にある鳴き砂をテーマにした映画を大手の映画会社と契約して撮影することが決まり、弘子は長年の苦労が報われたと大喜びでした。
鳴き砂とはその上を歩くと「キュッ」と音が出る砂浜のことで、全国各地に有名な海岸がありますが、管理人が調べた限りでは今回の作品で出てきた海岸というのはなさそうです。
高岡明が前日泊まったホテルの名前。
午後4時半頃にマンションを訪れた電気店。シナリオライター志望の木塚は大型電機店で配送のアルバイトをしており、また高岡も木塚のアルバイト仲間でしたね。
ちなみに米花電機といえば393「誘拐…らしい事件」でも登場し、高木刑事たちがこの店の店員に変装していましたよね。
井上弘子の部屋にあったテレビ情報誌。定価190円。表紙には「急展開 連ドラ続々クライマックス」の見出しの他、三田博史、東山高之、松田潤、長山まゆみ、阿川サヨリの名前がありました。何か全部実在の某有名人に名前が似てますね(笑)
どうやら弘子はお笑い番組が好きだったらしく、忘れないように赤で括ってありました。そして3時からの「ニッポン笑×笑ショー」という番組を録画していました。ちなみにその番組表には出演者の所に「松塚やっくん他」の文字が。これは誰のもじりかすぐ分かりますね(笑)
高岡明の地元福島県で発行されている新聞。高岡の特集記事があったのですが、なぜかこの新聞を小五郎も高岡も”福島日報”と呼んでいました。しかし新聞には確かに”福島経済新聞”とあります。
今回は何だかとてもやりきれない事件でしたね。小五郎の気持ちもよく分かるというか、何で長年苦労を重ねそれを支えてきてくれた人をこんな形で葬り去り、自分の晴れの舞台を汚さなくてはいけないのかなあと考えると、犯人の愚かさにただただ呆れるばかりです。
人間一人で生きている訳ではないのですから、もう少し周りで支えていてくれる人間に感謝に気持ちを忘れないでいたらこんなことにはならずに済んだと思うのですが。何か読書で言うと読後感ということになるのですが、見終わった後にやりきれなさしか残らず、こういうのは個人的にはあまり好きではないですね。
しかしミステリとして考えると、今回はよく考えられていて、鳴き砂の決定的な証拠とか伏線もお笑い番組の録画など細部にわたって丁寧に作られていたことは間違いありません。またコナンが最初に場所のアリバイトリックだと気付いた理由というヒマワリの件についても、なかなかのものだと思いました。そんなこともあって今回の皆さんの評価も結構割れていますね。
5点満点は少ないものの2点と1点も少なく、大半の方が3点か4点と評価している珍しい作品です。傑作でもなければ駄作でもなかったという評価なのでしょう。
ただよくよく考えてみるとヒマワリの件で気づかなくても、今回はタバコ屋の老婆の証言で犯人が被害者を別の場所で殺害し何らかの形で現場に遺体を移動させたという、いわゆる場所的なトリックがあったことはもう否定できない事のような気がします。
そしてそれができたのはアリバイのある木塚じゃないとすれば残るはもちろん電機店の店員だけでしょうから、これが何者かを特定することは別としても電機店の店員が犯人であると推理するのは実に容易いと思うのですが(苦笑) 正直この店員が事件とは無関係と言い切ったり、外部犯の仕業だと考えた目暮警部にはちょっと困りものです。
そうでなければ犯人は最初からマンションの中にいて、電機店の店員が共犯でない限り警察が到着してからもずっと中にいたことになりますから。